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RFC#20

腰椎麻酔の感覚像

 

鰊屋魚利

yurikad@cb3.so-net.ne.jp

 

(c) 鰊屋魚利 2002

 

 

最近半月ほど入院をして、腰椎麻酔によって下半身を麻痺させて手術を受けるという

経験をし、意識は覚醒して下半身の感覚がないという経験を、時限的にしました。

手順としては右を下に横向きに「く」の時に寝転んで、腰椎に、麻酔薬を注射する前

に、腰椎の回りの筋肉4箇所に予備の痛み止めの麻酔をして、最後に腰椎に神経を傷

つけないように麻酔を打ち、その間、手術の執刀医たちは、手術の準備をばたばたと

しているわけです。15分〜30分で麻酔が効いてきたところで、ストレッチャーから手

術台に移されて手術がはじまります。

麻酔医は、ずっとつきっきりで麻酔監理とバイタルチェックをしているわけでなので

すが、時々、麻酔の効き具合を確かめるために、アルミでできた薬のケースの角でチ

クチクとつついて、「ここは感じますか、ここはどうですか?」と肩とか、みぞおち

のあたりとかを確認するわけです。麻酔が全く効いているところは、感覚がないし、

境目のところは、触られている感じはわかるけれども、痛覚はありませんでした。

少し風邪をひいていたので、時々咳きがでるのですが、腹筋や横隔膜のあたりが麻痺

しているのでうまく咳をコンコンとすることができず、ヒィヒィと息がモレるような

感じでした。同じく腹筋が使えないので息をするのも重く、胸の上に思い鉛のふとん

をのっけられたような感じでした。

丁度手術が終わる、絶妙のタイミングで、まず左足に、ビリビリとした、正座の後の

痺れのような感覚が戻ってきたのですが、右下半身の感覚は全くありません。

病室に戻されて、右手に生あたたかいゴムのようなものが触れて何だと思ったら、自

分の腰でした。左足の感覚は戻ったのですが、右足はわかりません。夫に確認しても

らって、一生賢明足を動かそうとしても、足が動いてる感覚はないのですが、

動いてるといいます。夫に足を揺すられている感覚はわかっても、足に夫の手がふれ

ている触覚がわかりません。というような経過があって、右足にもだんだんぴりぴり

と、感覚が戻っていきました。

右足と左足の感覚の戻るタイムラグは、横向きになって重たい麻酔薬を入れたので下

になった側のほうが、強く麻酔が効くということを、術後に巡回にきた麻酔医が言っ

ていました。

普段たとえば、人さし指と人さし指をあわせた時、触っている自分と触られている自

分の感覚を分離するのは困難ですが、こういう経験を通じて、感覚というものを得る

ルートはいろいろあって、触覚も、能動的な運動によるフィードバックや、圧迫が皮

膚を伝わって、その周囲にも伝わったり、骨を通じて振動が末梢から、根幹に伝わっ

てきたりと、様々な感覚要素が混合して、一つの感覚像を作っているのだということ

をあらためて実感し、

そして、感覚は、『触れた→脳が認識した』のONE WAYではなく、

『触れた→脳が認識した』→『脳から触れている状態を確認する』というような

エコーが常に発生しているような気がしました。それは、交感神経と副交感神経、

大脳の局在能力とか小脳や脳幹のそれぞれの働きということなのかもしれませんが、

感覚というものは感じる私と感じた私の状態でエコーのように響きあっていて、常に

合わせ鏡の中の状態にあるというような思いにとらわれたわけです。

 

たとえば、その《状態》をシミュレーションするとしたら?

---シミュレーションといっても《状態》あるいは現象を視覚イメージにある要素を

置き換えたらどうなるかということで、感覚あるいは、神経機構の再現ということで

はありません。

●合わせ鏡モデル

 

http://site-of-fish.com/images/MIRROR.GIF

 

 

CPU3台でのニューラルネット機構、上の2台で画像をパラメータ変換して送りあい

2台からの情報を合成して3台目の画像ができあがるというようなシステムです。

この図の像は、便宜的にいれたもので、実際は演算速度をあげるために、

カメラからの映像をフィルタ処理して、単純なベクトル図形のようなものにして

それをパラメータ変換して送り合うというような機構を考えます。

これはただ情報をスキャンして、1台のCPUで交互にパラメータを置き換えることと

どう違いが出てくるのかということですが、一台であると逐次的で線形で確定的にな

ってしまいますが、

3台のCPUで、たとえ、単純でシンプルなニューラルネットであっても、

その、タイムラグが不安定な要素となり、神経機構の興奮と抑制といった、側面を

再現してくれはしないだろうか?というような淡い期待に基づいています。

普通のニューラルネットとどう違うのか?

神経機構を、コンピュータプログラミングで再現するモデルは、

パーセプトロンであるとか、アソシアトロンであるとか、ポップフィールドモデルと

か、様々な確立されたパターンがあり、それらは、それぞれ特異な、目的解というも

のを持つわけだが、この場合、最後の帰着点がいかに最適なものに結びつくか(例え

ば、連想記憶が得意だとか)ということであって、過程を『見る』というものではない。

『合わせ鏡モデル』は、『過程を視覚的に見る』ためのモデルなので、そのプログラ

ムは、様々なパターンを試して、視覚的に面白いものにしていくということで、あら

かじめ想定された合目的的な最適解というものを持たない機構としたいと思います。

 

コンピュータシミュレーションにおいて不幸なできごとは、多くの場合、想定される

解が存在するということである。最適解を得るための効率の良いプログラムというこ

とではなく、『こんなんやったらこんなんでました』ということで、何かの新しい地

平を見つけうるというところに、コンピュータシミュレーションを生かしてみたいと

いうのが私の目下の研究目標であるので、今回もそのような機構を想定してみました。

ピアジェ+ガルシア『精神発生と科学史』にもこのような一節があります。

「べつの道をつうじて獲得された異なる結果は、遅かれ早かれXとX'とのあいだの多

少とも複雑な変換を用いて調整可能になるだろうが、変換にもとづく調整は事後にし

か可能にならないので、事前に決定されていた可能性はありえない、ということであ

る。このような調整への介在への信頼は、つぎのような事実に立脚する。すなわち自

然(または「世界」)は実在し、それはあまり静的ではないとしても、存在と精神の

継続的発展をふくむので、にもかかわらず矛盾しない、という事実である。さてこの

自然の内部では、精神と物理的現実のあいだに、二種類の接続点が提示される。その

ことは両者の相互作用を保証し、相互作用自体は、ほぼ円環的形状をとる。つまり、

それは主体の精神をその生体に結びつけるとともに、生体を物理的世界の構造に結び

つけ、生体は物理世界との継続的な相互作用におかれている。その結果、精神の構成

が諸現象の境界をきわめて大幅に(さらには「無限に」乗り越えるとしても、両者の

あいだの調和は可能である。また異なる探究の道が、一見して相反する結果に到達し

たとしても、そうした結果は新しい認知の道具の発明によって、つねに調整可能にな

るだろうと望むことができる。」

長い一節ですが、最後の『新しい認知の道具の発明』というところに着目するための

引用です。

この本は、今回の先生のレポートを書くための参考にと買い求めましたが、私の修論

のテーマに合致する部分も多いので、さらに熟読していきたいと感じております。

 

この合わせ鏡モデルの予備シミュレーションプログラムを作ってみようと今回MatLab

やCを大分いじりましたが、このレポートには間に合わせられませんでしたが、この

機会にこのモデルの実現を考えていきたいと思います。

それから、現在のコンピュータシステムの応用で非線形な自然環境を表現するには?

ということで、カレードスコープモデルというのを考えています。

実現性はなくはないが、デバイスの実装設計等を考えると費用面等から実現可能性は

低いのですが・・・。

KALEIDO.GIF を参照ください。

http://site-of-fish.com/images/KALEIDO.gif

 

子供の行動などを見ていると、概念は実経験の積み重ねによって、形成されていくと

いうことが実感されます。4才ともなると、テレビやビデオなどから、高度な知的抽

象的概念を受け売りで獲得することもありますが、現時点ではすべて、自分の身近な

実体験につなげて置き換えているようです。

ですから、概念を『見せる』ということにこだわって、今後の活動をすすめていきた

いと考えています。

 

(c) 鰊屋魚利 2002

 

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