=== Qualia Mystery Remix==================================
クオリア・ミステリー・Remix
(1999/04/9)
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クオリア・ミステリーは、科学的アプローチを基礎に、様々な側面
から心と脳の関係について考える未来感覚マガジンです。
このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を
利用して発行しています。( http://www.mag2.com/ )
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[Qualia Mystery Remix] by fuku
Contents
・発行者から
・「心脳問題とcommunication」 Remixed by ふくしま
●発行者から
今回は、「南国」で脳の研究をしているふくしまさんがReMix
します。
<ふくしま(福島 誠)>
1973年生まれ。現在、 Graduate student and Research assistant
of Ph.D. program in Complex systems and Brain sciences at
Florida Atlantic University。中学卒業後、大学入学資格検定を経
て、早稲田大学理工学部物理学科卒業。同大学修士課程を6ヶ月で
中退後、フリーターを経て、1998年より現職。現在、視覚の計算論
的アプローチとsubjectivityの問題を結びつけられないかと妄想中。
電子メイル fukushima@walt.ccs.fau.edu
<DJふくしまの前口上>
「ブラインド・サイト」(Qualia Mystery #10、脳科学ニュース)
とは何も関係ないかもしれないんだけど、私よく眼を開けたま
まで眠るんですよ。
(多数の友人の証言から。ビデオに撮られたこともある)口も
開けたまま眠ったりするんで電車で居眠りして起きると周りの人
々が爆笑してたりするんですけど。
でももちろん、寝てる時何も見えないんですけどね。こういう
こと体験すると、ホント、”脳で見てる”ってよく実感します。
あと、寝むったまま電話をとって、会話の途中で目が覚めた、と
いうこともあったんですけどね。会話っていっても何言っても「
うん、うん、」とか手応えのない返事だったらしいですけど。
いや、脳は深いわ。
●心脳問題とcommunication Remixed by ふくしま
「あなたの気持ちが分からなくなったの」
…え?ボクの気持ちが分かった時が一瞬でもあったのかい?
心脳問題と表される一連の問題の核心とはcommunication可能性にある
といってよい。
科学の誕生は、価値の「主観性」から「客観性」への移行によっ
てなされたといえる。科学では、自然を"どう感じる"ことよりも、自然が
"どう振舞うか"をいかに人の解釈から離れたところに置くか、というこ
とに細心の注意が払われた。
しかし、その歴史の中で科学者が一時でも自然を"解釈しよう"としなかっ
たことがあっただろうか。科学者は自分の自然に対する解釈を、いかに
他者に伝えるか(communicateするか)という努力を払ってきただけなの
ではないだろうか。
量子電磁力学のDirac方程式の発見は、Diracの対称性(symmetry)へ
の病的なまでのこだわりによって生みだされた、という逸話が残ってい
る。彼にとって、自然の解釈(symmetry)は先にあり、それをどう彼の外部
とcommunicateできる形式にするかということは後に残された問題だっ
た。
数学とは自然の振舞いを他者にcommunicateするための言語であるといえ
る。科学者の脳の中にあった主観的概念(理解)は、"数字"という記号
(symbol)を介することで、間接的に自然の振舞いと比較することさえも
可能になった。
このように、自身の理解を客観的形式に書き表わし、外部(他者、自然)
とcommunicateすることが自然科学の本質であったといえるだろう。
そこで、脳である。我々が心脳問題といわれるものを口にするとき、そ
れは即ち、主観的概念を"ありのまま"communicateできる形にしようとい
う試みに他ならない。
私が私を意識している、目がみえる、ハラペコで死にそう、すばらしい
風景だ、あなたを誰よりも愛している……「そう感じている」というこ
とをどう寸分違わずcommunicateできるのか。このQualiaをどう
communicateできるのか。
従来の問題では、主観的感覚を客観的な形式で表した時、それに対応す
る自然現象を観測によって、その形式と比較可能なsymbol(数値)に表
すことが可能であるものを扱おうとしてきた。その理論の正当性は、
主観から導出されたsymbolと自然の観測によって導出されたsymbolを比
較することで判断されてきた。
心脳問題は、このような科学と性質がだいぶ異なっている。私のQualia
をあるsymbolで表現したとき、そのsymbolが"正確な"表現である
かを知る術とは、なんだろうか?我々のqualiaを外部の観測からその
まま取り出す、そんなことが可能だろうか?
現時点でのqualiaのsymbolの最も有力な候補者は、神経細胞(neuron)の
発火の時空間パターンである。とすれば、そのsymbolとqualiaの対応関
係を確認する術は、そのsymbolを"体験する"ことであるということにな
るだろう。
もし、あなたの脳が持つneuronの発火の時空間パターンを再現できない
神経回路の構造を、私の脳が持っていたとしたら、どうなるだろうか?
qualiaのcommunicationは不可能となるだろうか?それとも、全く別の
方法でqualiaをcommunicateする可能性は残されているのだろうか?
このcontextの中で心脳問題は、communication可能性という問題に書換
えられたのであった。
ここに我々は、主観性と客観性の断絶を再発見する。
Do you understand my qualia?
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○電子MG Qualia Mystery Remix 1999/04/09
発行者:茂木健一郎 (脳科学者)
kenmogi@qualia-manifesto.com
http://www.qualia-manifesto.com/qualia-mystery.html
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