=== Qualia Mystery ========================================
クオリア・ミステリー
第9号 (1999/04/1)
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クオリア・ミステリーは、科学的アプローチを基礎に、様々な側面
から心と脳の関係について考える未来感覚マガジンです。
このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を
利用して発行しています。( http://www.mag2.com/ )
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[ Qualia Mystery #9]
(Release 1 of stage 2)
(8 releases planned for stage 2)
Contents
・クオリアの記憶
・First stage reviw
・脳科学ニュース 「ミラー・ニューロン」
● クオリアの記憶
私は、関東の郊外都市で育ちましたが、夏休みの度に親戚のいる九
州へ旅行していました。親戚の家の裏山が私の秘密の庭でした。
ある時、濃密な緑の照葉樹林の中にある墓地の近くを歩いていて、
突然巨大な緑の蝉を見たことがあります。蝉は、墓地の近くの茂みか
ら飛び立ち、あっという間に青空の中へ消えていってしまいました。
その蝉が巨大なものに見えたのは、小学2年生だった私の心の中で、
その蝉の表象が実体以上に大きなものに膨らんでしまっていたのでし
ょう。
ところで、その時の蝉の羽が緑色だったことを、私は鮮明に覚えて
います。その緑色の質感(クオリア)を、今でもありありと思い浮か
べることができるのです。私の心の中に、その緑のクオリアの鮮明な
記憶があり、もしもう一度その蝉の羽の色を見ることができたら、
「ああ、同じクオリアだ」と確認することができるでしょう。
過去に見た色のクオリアの記憶が残っているというのは、少し不思
議な感じがします。現在、実際に見ているもののクオリアが心の中に
あるということ自体も、不思議なことなのですが(物質的過程にしか
過ぎない脳の中のニューロンの活動から、どのようにして私たちの心
の中の鮮明なクオリアが生じるということは、心脳問題のハードプロブ
レム(難しい問題)とされています)、クオリアの記憶は、それにさ
らに時間の要素が加わるので、ますます不思議な気がするのです。
例えば、クオリアを入れ替えてしまっても、脳の機能は変わらない
だろうという議論をする人がいます。今まで緑のクオリアを生じさせ
ていたニューロンの活動パターンが赤のクオリアを生じるようにし、
赤のクオリアを生じさせていたニューロンの活動パターンが緑のクオ
リアを生じさせるようにしても、客観的に見た脳の機能は変わらない
だろうと。赤と青のクオリアをリズミカルに変えれば、「ダンシング・
クオリア」になるけど、それでも脳の機能は変わらないだろうと。確
かに、このような議論が生まれてくるような理論的根拠があるのです
が(例えば、心の中の表象が、因果的作用を持たない脳の中のニュー
ロンの随伴現象であるという仮定です)、記憶の要素を考えると、ク
オリアが入れ代わってしまうということはあり得ないのではないかと
思えてきます。例えば、赤と青が入れ代わってしまったとして、薔薇
の赤のクオリアが青のクオリアになってしまうとする。この場合、
「私」は必ずそのことに気が付くように思われます。そして、今まで
赤だったものが青になってしまったことに少なからず狼狽し、その結
果、私の行動は変わってしまうのではないでしょうか?
クオリアの記憶が成立していることは、別の側面からも不思議な要
素を持っています。つまり、「私」が今どのようなクオリアを感じて
いるかということを一つ「メタ」なレベルからモニターしている何ら
かのメカニズムが存在し、しかもこのメカニズムは、時間の流れの中
であるクオリアが確かにそのクオリアであるというクオリアの同一性
を保持できるということを意味するからです。このプロセスは、ニュ
ーロンの活動パターンからどのようにしてクオリアが生まれてくるか
というまだ未解決の問題のさらに上のレベルの、おそらく脳をシステ
ム論的に見なければ解けない難問だということができるでしょう。
● First stage reviw
Qualia Mysteryでは、1st stage (1999.1.30〜1999.3.16)の8
releasesについて御感想を募集しました。皆様の意見を総合すると、
ちょっと後半専門的になりすぎたということでした。また、
qualia@digitalや、ゾンビ、エレキ、ゼルダの回には、多くの御意
見が寄せられました。皆様の御意見を参考に、春休み明けの2nd
stageを組み立てていきたいと思います。これからもよろしく御愛読
おねがいいたします。
茂木健一郎
1st Stage Release 記録
#1 心の不思議の解明に向けて (1999.1.30)
#2 クオリアとは何か? (1999.2.3)
#3 心の機能とゾンビの概念 (1999.2.10)
増刊号 ゲスト 塩谷賢 (1999.2.15)
#4 エレキ、神経科学、二つの文化 (1999.2.19)
#5 「ゼルダ」に見るクオリアとアフォーダンス (1999.2.25)
#6 コピー人間は「私」か? (1999.3.5)
#7 「マッハの原理」(1999.3.12)
#8 qualia@digital (1999.3.16)
Qualia Mystery backnumberは、
http://www.qualia-manifesto.com/qualia-mystery.html
で御覧になれます。
◆ 脳科学ニュース ◆ ミラー・ニューロン
猿の運動前野(premotor cortex)のF5と呼ばれる領域で「ミラー・
ニューロン」(mirror neurons)と呼ばれるニューロンが発見され、
注目を集めています。Gallese V. & Goldman A. (1998) Mirror
neurons and the simulation theory of mind-reading. Trends in
Cognitive Sciences 2, 493-500はこのテーマの研究動向をレビュー
しています。ミラー・ニューロンとは、ある行為を自分自身がやった
時に発火するだけでなく、他の猿が同じ行為をするのを観察した時に
も発火する一群のニューロンです。ミラー・ニューロンの機能はまだ
わかっていませんが、運動学習(見まね)や、相手の心の状態を読む
(mind-reading)に役立っているのではないかという説があります。
興味深いことは、同じ領域に、「掴むことができるもの」など、行為
の可能性に反応するニューロン、別の言葉で言えば、「アフォーダン
ス」(affordance)に反応していると思われるニューロンがあること
です。ミラー・ニューロンは、感覚と運動がおそらく同じ情報フォー
マットを共有している現場として注目されます。
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http://satellite.nikkei.co.jp/pub/science/page/qualia/qualia.html
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○電子メールマガジン「クオリア・ミステリー」1999/04/01
発行者:茂木健一郎 (脳科学者)
kenmogi@qualia-manifesto.com
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