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=== Qualia Mystery ========================================

         クオリア・ミステリー 

         Regular Issue 第30号 (2000/04/21)

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クオリア・・・それは、赤い色の感じ、サックスの音色、薔薇の香り、

絹の手触りのような、感覚をつくる様々な質感。

いかにして、物質である脳の中のニューロンの活動から、これほどまでに

豊かなクオリアが生まれるのか?

この問題こそが、心脳問題のハード・プロブレムです。

 

クオリア・ミステリーは、qualia-manifesto.comが提供しています。

http://www.qualia-manifesto.com/index.j.html

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[ Qualia Mystery #30] 

 

(6th release of stage 4)

(8 issues planned for stage 4)

 

Contents

・くおりあ庵から

・ヒューマノイドには何が必要か?

・私が出会ったクオリア 第9回by 坂本渚

・This Just In:「世界観に開いた穴」養老シンポジウム

 

◆くおりあ庵(aka茂木健一郎)から◆

 

・今回の「私の出会ったクオリア」は、坂本渚さんがお寄せ

くださいました。

 

・今回のQualia Mysteryは、発行者の事情により、発行が遅れました。

申し訳ありません。

 

◆Qualia Mystery Essay◆  ・ヒューマノイドには何が必要か?

 

 出張で、大阪に行った。

 道頓堀を歩いていると、有名な食い倒れ人形が太鼓を叩いていた。

 これは、一種のHumanoidだなと思った。

 さらに歩いていくと、パチンコ屋のdisplayで、恵比須様の人形が

ゆらゆらと揺れていた。

 単純な動きの繰り返しだが、これも一種のhumanoidだなと思った。

 もちろん、恵比須人形も、食い倒れ人形も、ホンダのP2に比べれば、

原始的なテクノロジーで同じ動きをくり返しているだけである。

 それにも関わらず、私たちは、これらの人形に、ある種の人間的な

性質を見る。

 Humanoidであるためには、二足歩行をする必要はないのではないか

・・・

 そんなことを考えながら、私は道頓堀から心斎橋へ向かうアーケード街を

歩いていた。

 そのうちに、数人の若い女性たちが、黒い服を着て、身体を揺らしながら、

ラップ調の歌を歌っているところに出くわした。

 その前に、一人の中年男性が立って、音楽に合わせて身体を揺らしていた。

 男は、黒い鞄のようなものを背負っていた。良く見るとそれはビニルの

ゴミ袋だった。

 女性達の足下には、看板が置いてあって、そこには、近々行われる

コンサートの日時と場所が書かれていた。彼女達は、そのプロモーションの

ために、こうしてショッピング・アーケードの中で歌っているのだ。

 そんな時に、黒いビニル袋を背負ったおじさんに絡まれてしまい、彼女

たちは少し迷惑な気持ちだろう、そう思った。

 しかし、おじさんの様子がいかにも楽しそうで、彼女達が当惑していな

がらも、アカペラの見事なコーラスを崩さない様子も好もしく、

私は、「ああ、いい風景だな」と思わず立ち止まって眺めていた。

 

 そのうち、彼女達のコーラスが終わって、一斉に30度くらいおじぎした。

おじさんは、喜んで、手を叩きはじめた。

 「ブラボー」

 思いかけずつやのある声が叫んだ。

 私から見て手前の二人の女性が、軽く応えるようにおじさんに向かって

指を突き出した。

 「ブラボー」

 おじさんは、とても感激したらしく、何回も「ブラボー」と言った。

それが、また背中の黒いゴミ袋と妙にミスマッチで面白かった。

 

 ああ、面白いものを見たなと少し心が暖かくなり、て再び歩き始めた私は、

ふと、さきほどのおじさんの動きが、ホンダのP2というよりは、パチンコ

屋の恵比須さんそっくりだったということに気が付いた。

 それから、Humanoidであるためには、いや、人間であるためには

何が必要なのか、また考えはじめた。

 

 

◆私の出会ったクオリア◆ 第9回

 

坂本渚

ultimaratio@intedsystems.com

(某サイエンス研究所アシスタントリサーチャ)

 

【エレクトロスフィア /あなたは誰?(Think Distrustful.)】

 

 この世界では巨大なネットワーク(エレクトロスフィア)によっ

てあらゆることが管理されている。人々は、彼らが望まなければ、

一歩も外に出ることなく生活を送ることが可能であり、それらは社

会生活上でも何の問題もない。人間同士のコミュニケーションは、

ブラウザ(Data-swallow3.2.2)を使ってのエレクトロスフィアで

行われるため、実際には出会っていない人物と仕事をしたりするこ

とも決して珍しくない。

 さて、あなたがこの世界の住人であると仮定しよう。あなたはブ

ラウザを立ち上げ、ある友人のチャンネルに接続した。あなたは最

近の学校での不満を語り、友人は真剣な表情で相談に乗ってくれた。

だが、ここであなたはある疑問を持つ。この友人は一体誰なのかと。

あなたの疑問はさらに膨らむ。「友人」はエレクトロスフィアの中

では友人であったとしても、ブラウザの画面に映っている人物は、

本当にその「友人」のものなのか。あなたは、それが全く別の人物

のものなのかもしれないと考える。あるいは、それはプログラムに

よって作られた画像データに過ぎないのかもしれない。「友人」が

自分は本物の人間であると言ったとき、あなたはそれを信じること

ができるだろうか? エレクトロスフィアの中にだけ存在するだけ

の「友人」と現実世界に本当に存在する「友人」との違いは何なの

かとあなたは考える。しかし、その答えは、あなた自信で見つける

しかない。

 あらゆるモノを疑ってかかること。それが重要だ。情報なんて所

詮ただの情報でしかない。テレビで言っていることが真実なんて思っ

たら大間違いである。愚かな人間は何も考えず、与えられた情報を

そのままダウンロードして簡単に信じてしまう。だが、それが果た

して真実といえるのか? 大事なのは、自分の目で世界を見つめ、

自分の脳で考えること。あらゆるものを疑い尽くした後で、初めて

何かを信じることが可能になる。この世界で何かを信じるためには、

全てを疑わなくてはならないのだから。

 

 

How about it then? Shall we start by taking a look here at, say,

our human history, and see where it takes us? Ah, I remember

now. At the time when politics still held sway, computer technology

was nothing more than a human tool. Then, in our imaginary

word-of SF novels, movies, computer games and the like-we

gave our machines, our computers, personalities, believing that

one day the fantastic-robots and cyborgs-would become a reality.

But, you see, that idea was fundamentally wrong. God is the only

one to whom the power of creating life from nothing is allowed.

That's the way this world has been created. However, not in that

way, but if we humans were to become the machines or computers,

then there's quite a possibility, don't you agree? I know you do.

This extreme world takes that which forms a human brain, the

personality, and converts it without alteration into numerical data,

which is then duplicated on a computer. Basically it's a direct brain

transplant to the electrosphere. This is the research to which

I have dedicated my life-it is my hope. Now then, I'm going to

make it plain and clear here: this isn't one of those wild stories

that our forefathers clamoured about. It looks like the coming age

will be on our side. I'm sure that you will have need of me again soon.

I look forward to that time. Well, then. I'll be seeing you.

Have a nice day.

 

(Simon Orestes Cohen)

 

 

PlayStation Software

[Three-dimensional dramatic flight shooting game]

"ACECOMBAT3 electrosphere"

 

 

Produced by NAMCO LTD. Copyright 1999 NAMCO LTD., ALL RIGHTS RESERVED.

"PlayStation" is registered trademarks of Sony Computer Entertainment Inc.

 

====================坂本渚の広告===================================

 

坂本渚さんの広告は、ないそうです。

 

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*編集人から

 

「私の出会ったクオリア」の原稿を募集します。

800字程度でお書きください。

採用の方は、発行部数2400部以上のこのメルマガで、

10行以内で好きなことを広告ができます。

御投稿は、kenmogi@qualia-manifesto.comまで。

 

 

◆This Just In◆ 養老シンポジウム 心に残った発言

 

 養老孟司さんが主宰する養老シンポジウムが、4月2日から4月4日に、

新潟県新井市で行われた。これは、養老さんが自分の会社

「有限会社養老研究所」を通して、いわば身銭を切って主催している

シンポジウムだ。

 テーマは、脳、遺伝子、生命現象、認知、言語などである。

 養老さんは、「金を出してもらうと、どうしても内容に制限がかかる。

自分の金でやれば、どんな内容でも文句を言われる筋合いがない」

というフィロソフィーで、現代の「世界観に開いた穴」を探究

することを目指されているようだ。

 参加したのは、郡司ペギオ幸夫、松野孝一郎、

津田一郎、野矢茂樹、計見一雄、池田清彦、団まりな、法橋登(順不同)、

それに茂木健一郎(私)と、哲学書房の中野さん、中村さん、吉住さん、

日本経済新聞社の松尾さんだった。

 野矢さんが最初に講演し、自己同一性の問題に

ついて話した。郡司さんは「いかにして根拠のない選択を擁護できるか」

について、そして私は「クオリアと志向性の相互作用を通したシンボル

理解への試み」について話した。他に、団さん、法橋さん、計見さん

が講演した。

 いくつか、シンポジウムの間に耳にした言葉の中で、心に残ったものを

ピックアップしよう。

 

 野矢茂樹「哲学するということは、裸になるということだ。自然

科学者のように、データという衣をまとっていては、裸になり切れない。」

 

 養老孟司「言語というものは、クオリアを消去するために生まれてきた。」

 

 郡司ペギオ幸夫「2年くらい口を聞かなかった妹が、ある時、突然、

『兄・小林秀雄』という文章を書いて送ってきたことがある。」

 

 松野孝一郎「郡司さんの記述の本質には、limited resourcesの下での

efficiencyという問題が絡んでいる。」

 

 計見一雄「身体よりも精神を重視する考え方は、時には危険な

動きにつながることがある。心の時代と呼ばれている現代は、ある意味では

危ない。」

 

 養老シンポジウムの模様は、哲学書房から本になる。

 

*1999年11月21日、22日に行われた

 第1回養老シンポジウムの模様は、すでに本にまとまっています。

養老孟司編 「脳と生命と心」 哲学書房より4月20日発売

 3800円。

黒っぽい、迫力のある表紙の本です。

 

*第3回養老シンポジウムは、今年の秋に開かれる予定です。

 

<脳科学ニュースは、都合により、今回に限り休載いたします。

ご了承下さい。>

 

<End of this issue>

 

次号予告

 

 次回のQualia Mysteryは、5月5日頃お届けする予定です。

 Tuscon, Arizona, U.S.A.で4月10日〜4月15日に開催された、

Towards a science of consciousness conferenceの模様など。

お楽しみに。

 

===Qualia Mystery Publicatiojns Department=====================

 

 養老孟司・茂木健一郎 vs 村上和雄・竹内薫

 

「脳・心・遺伝子 vs サムシング・グレート」

徳間書店より発売中。

 

 真っ白い表紙に、黒い活字が書かれたシンプルな装丁の本です。

値段はおそらく1800円くらいです。

 

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○電子メールマガジン「クオリア・ミステリー」2000/04/21

発行者:くおりあ庵=茂木健一郎 (脳科学者)

電子メイル kenmogi@qualia-manifesto.com

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