=== Qualia Mystery ========================================
クオリア・ミステリー
Regular Issue 第29号 (2000/03/21)
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クオリア・・・それは、赤い色の感じ、サックスの音色、薔薇の香り、
絹の手触りのような、感覚をつくる様々な質感。
いかにして、物質である脳の中のニューロンの活動から、これほどまでに
豊かなクオリアが生まれるのか?
この問題こそが、心脳問題のハード・プロブレムです。
クオリア・ミステリーは、qualia-manifesto.comが提供しています。
http://www.qualia-manifesto.com/index.j.html
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[ Qualia Mystery #29]
(5th release of stage 4)
(8 issues planned for stage 4)
Contents
・くおりあ庵から
・Points of View回 第1回 個別性(意識の超難問)by 伊藤周
・Qualia Mystery Essay:複雑系の数学?
・私が出会ったクオリア 第8回by 内田文子
・脳科学ニュース ラマチャンドランの論文(無料)
◆くおりあ庵(aka茂木健一郎)から◆
ブルーバックス
意識は科学で解き明かせるか
-脳・意志・心に挑む物理学-
天外伺朗/茂木健一郎 著: 本体 820円
発行年月日:2000年3月20日
サイズ:173×112mm :204ページ
ISBN4-06-257285-0
http://www.bookclub.kodansha.co.jp/Scripts/bookclub/intro
/intro.idc?id=22595
◆Points Of View◆ 第1回 個別性(意識の超難問)by 伊藤周
Points of Viewは、qualia ml内の議論から、パンチのあったものを
コンサイスにお届けします。(不定期)
qualia mlは現在メンバー約240名。心脳問題について話し合って
います。
http://www.qualia-manifesto.com/mail.html
個別性(意識の超難問) by 伊藤周
私が不思議に思うのは、「なぜ私が他ならぬこの私なのか」が難問だと
言うのなら、その辺に転がっている石ころとか百円玉とかコップとかデ
ィスプレイとか鋏とかだって「どうしてこの百円玉が他ならぬこの百円
玉なのか」ということが難問であるはずなのに、だれもそれを難問だと
思わないらしい、ということです。
つまり、巨視的物体は個別性があり、区別が出来るということ(しかも
原理的には必ず区別できるということ)は、よく考えてみれば不思議な
ことです。(例えば百円玉の場合、マジックで名前を書いておけば必ず
区別できる)なぜなら量子力学的粒子(電子とか)は区別できないから
です。つまり、ここで量子力学的レベルと巨視的レベルで明らかに異な
る現象が現れているのです。
「個別性」というのはマクロなレベルで初めて現れる属性であり、決し
て自明な概念ではないのです。(このマクロというのは「巨視的物体が
非常に大きな数の粒子で構成されている」という意味です。)電子のよ
うな量子力学的粒子が「本質的に」区別が不可能だという意味は前に書
いたとおりです。
非常に大雑把に言えば、2つの巨視的物体(百円玉とか石ころを考えて
下さい)に対応する多粒子系の波動関数を考え、それぞれの波動関数の
間の干渉を計算すると、それぞれの巨視的物体を構成する粒子数が大き
くなればなるほど干渉項は小さくなり、粒子数N→無限大の極限で干渉
項がゼロになることが示せます。(ただし、これは大雑把な話で、「数
学的にきちんと」示すのはなかなか難しい)つまり、巨視的物体の個別
性は、巨視的物体が非常に多くの粒子から構成されていることから来る
帰結なのです。(直感的にはわかりやすい話だと思うのですが)
脳が巨視的物体であることは明らかですので、「なぜ私が他ならぬこの
私なのか」は脳が巨視的物体であり、意識が脳の上で起こっているプロ
セスであることから説明できるのではないでしょうか。結局意識の問題
、心脳問題の理解にはミクロな世界とマクロな世界の関係を物理的に解
明することが重要なのではないか、と私は思っています。
(c) 伊藤周 2000
bartok@lsi.nec.co.jp
◆Qualia Mystery Essay◆ 複雑系の数学?
複雑系の数学をつくろうとしている人たちがいる。しかも、カオスとか
そういう話ではなくって、もっと、数学の最も根本的な仮定自体を問い直
そうとしている人たちがいる。
そのことを、私は先日函館で行われた複雑系のシンポジウムで初めて
知り、とても驚いた。
中心になっているのは、北大の辻下徹さんと、奈良女子大の角田秀一郎さん
だ。
何が問題にされているのか、辻下さんや角田さんの書いたものから
いくつか抜粋してみよう。
さて、いよいよ数学の外で議論する。ウィトゲンシュタイン(とクリプ
キの質問は、「任意の自然数nに対して、an=nならば、a673=673
か」である。(ここで、673ははじめて代入したと仮定されている。)
これに対する数学者の反応は二つである。一つは「当り前だ」、もうひとつ
は「ウィトゲンシュタインは代入を懐疑しているわけね。それならなんでも
いえるよ」である。
ー角田秀一郎 「二つの系と自分」よりー
私が「68プラス57」のような問題に対し、ある特定の答えを
出すとき、私は、その答えを正当化することはできないーーその議論は
おおよそ次のように進む。68プラス57は125と私が答えると、ある
懐疑論者が来て、なぜ5でなくて125なのか、と問う。x、yのいずれも
57より小さければx*y=x+y、そうでないときはx*y=5となる
演算クワス*をいままでプラスといいながらやっていたのだと彼が主張する
とき、反論できない。(一部記号を改変)
辻下徹 「生命と複雑系」より
ウィトゲンシュタインやクリプキの上のような懐疑は、小咄の類いだと
私は思っていたのだが、どうも、辻下さんや角田さんは、数学の根底を
揺るがす大事件になると思っているらしい。このような見方が、現代数学の洗
礼を受け、ハードな数学者からも一目置かれている辻下さんや角田さんか
ら出てくることが、私を考え込ませる。
この件については、私は判断保留である。しかし、もし画期的な何かが
出てくる可能性があるのなら、ぜひ、辻下さんや角田さんにがんばって
ほしいと思う。
(辻下さん、角田さんの論文は、PDFでweb上に見つけられます。
検索エンジンで調べてみてください)
◆私が出会ったクオリア◆ 第8回
内田文子
音楽・美術・医薬関係の翻訳業。共訳書に「モーツァルト 光と影のドラマ」(マイケル・レヴィ著、音楽之友社刊)など。興味の中心はモーツァルトとフェルメール。
cana@pd.highway.ne.jp
突然ですが、今日は仕事でお疲れのあなたのために、温泉ツアーを企画いたしました。
行先は、那須の奥塩原温泉です。気晴らしに、お楽しみいただければ幸いです。
まず、椅子に深く腰掛けてください。目を閉じて、深呼吸をくりかえしましょう。だ
んだん手足が重くなり、頭がぼんやりしてきます。 なんだか眠くなってきました。
自分がどこにいるのかわからなくなってきました・・・。
ふと目をあけると、あなたは西那須野の駅前にいます。時刻は午前11時をまわった
ところ。あなたは奥塩原へとタクシーで向かいます。
露に濡れた緑が目にしみます。山を登るにつれて、空気はますます澄んできます。
30分ほどで着いたところは、小さな共同浴場です。ひなびた感じの木の小屋で、
看板に”寺湯”と墨で書かれています。
なかに入ると、いきなり脱衣所です。お風呂場は蒸気で真っ白です。お湯は硫黄泉
で、白く濁っています。手ですくうとサラサラとして、脱脂乳のようです。成分が
強いのか、ちょっとつかっているだけでポカポカしてきます。頭がぼうっとしてき
たので、のぼせないよう、足だけを浴槽の縁にのせます。ピンク色に染まった足先
を眺めながら、「極楽極楽」とあなたはつぶやきます。仕事であった嫌なことや、
あなたを苛立たせた人たちが、みんなトロリとお湯にとけ、蒸気になって昇天して
いきます。ここのお湯は肌にいい、と聞いていたので、あなたは何度も顔を洗い、
タオルで身体をこすります。そして、むかし読んだ竹内逸の「浴室風景」の一節を
思い出します。
「湯浴みの快感とは、自分の肌にじわじわと湯が染みて、肌と湯、つまり内と外と
のけじめがなくなってくる、それゆえにうっとりとしてくる皮膚感覚のことである。
あるいは自分が湯につつみこまれる感じといえばよいだろうか。」
さて、つぎは待望の露天風呂です。頭のうえには、銀色に輝く空が広がっています。
清々しい風とせせらぎの音。ぬるめのお湯が、日の光にきらきらと揺れています。
岩にもたれて、あなたはそっと目を閉じます。遠くで鶯が鳴いています・・・。
今日は楽しい一日でした。自宅に帰ったあなたは、「ごくらくう〜」と歌いなが
ら窓を開け、冷えたビールでお月さまに乾杯します。喉の渇きがおさまったところ
で、とっておきのワイン(今夜はスペインのリオハ)の栓を抜きます。おつまみに、
夕べ作ったスベアリブの赤ワイン煮とカマンベールチーズを冷蔵庫から出しましょう。
では、ゆっくりワインを味わいながら、楽しかった温泉の旅を思い出してください。
おやすみなさい。
====================内田文子の広告==============================
医薬関連の論文、文献などの翻訳(日英、英日)お引き受けします。
a_uchida@transystem.co.jp
までお問い合わせください。
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*編集人から
「私の出会ったクオリア」の原稿を募集します。
800字以内でお書きください。
採用の方は、発行部数2400部以上のこのメルマガで、
10行以内で好きなことを広告ができます。
御投稿は、kenmogi@qualia-manifesto.comまで。
◆ 脳科学ニュース ◆ ラマチャンドランの幻肢
「脳の中の幽霊」のヒットで話題になったラマチャンドランの最新の
レビューがPDFの形で無料でダウンロードできる。
大英帝国のネルソン提督は、戦闘で右腕を失った後、指が幻肢の掌に食い
込む幻覚に迷わされ、それが「魂の存在の直接証拠」だと考えたそうだ。
ラマチャンドランの調べた18人の患者のうち、8人は、顔への刺激
を、失われた腕に対する刺激として知覚したという。しかも、この際、顔と
腕に同時に感覚が生じたという。これは、体性感覚野の再構成の結果とし
て解釈することができる。
腕を失った患者は、最初は幻肢を自由に動かせるように感じるが、次第に、
幻肢は、「凍って」しまう。そして、しばしば、ネルソンの右腕のように、
指が掌に食い込んで痛いというような幻覚に悩まされる。ラマチャンドラン
は、鏡を使って、まだ存在する手の運動を幻肢の運動として知覚させること
で、幻肢の自由な運動を回復し、場合によっては幻肢を「切除」する(
幻肢の感覚を感じなくなるようにする)ことに成功している。この場合、
明らかに、視覚的フィードバックが重要な役割を果たしている。
この他、「脳の中の幽霊」に書かれていたコアなコンテンツが要約され
ており、この本の読者が、英語で読むとどんな感じなのかあたりをつける、
あるいは、まだ本を読んでいない人が、どんな内容の本なのか探るのに
適した文献だろう。
ARCHIVES OF NEUROLOGY
Vol. 57 No. 3, March 2000
Phantom Limbs and Neural Plasticity
Vilayanur S. Ramachandran, MD, PhD; Diane Rogers-Ramachandran, PhD
Full text:
http://archneur.ama-assn.org/issues/v57n3/full/nnr8257.html
PDF:
http://archneur.ama-assn.org/issues/v57n3/pdf/nnr8257.pdf
<END OF THIS ISSUE>
次号は、4月3日頃にお届けいたします。
第二回養老シンポジウムの様子など。
お楽しみに!
===Qualia Mystery Books==================================
やっと1刷がはけるところまで来ました。増刷なるか?
クオリアと志向性から心の属性を解明する試み。
茂木健一郎 「心が脳を感じる時」
講談社 1999年 担当編集者 小沢久(現ブルーバックス)
確か2200円。
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===Qualia Mystery Recommends===========================
(ちょっと古いですが)
ウンジャマ・ラミー プレステ用音楽ゲーム。
中古で2000円くらい
とても押せないと思えたキーコンビネーションが無意識の
働きによって押せた時、意識の中で何かが立ち上がる。
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○電子メールマガジン「クオリア・ミステリー」2000/03/21
発行者:くおりあ庵=茂木健一郎 (脳科学者)
電子メイル kenmogi@qualia-manifesto.com
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