=== Qualia Mystery ========================================
クオリア・ミステリー
Regular Issue 第28号 (2000/03/04)
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クオリア・・・それは、赤い色の感じ、サックスの音色、薔薇の香り、
絹の手触りのような、感覚をつくる様々な質感。
いかにして、物質である脳の中のニューロンの活動から、これほどまでに
豊かなクオリアが生まれるのか?
この問題こそが、心脳問題のハード・プロブレムです。
クオリア・ミステリーは、qualia-manifesto.comが提供しています。
http://www.qualia-manifesto.com/index.j.html
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[ Qualia Mystery #28]
(4th release of stage 4)
(8 issues planned for stage 4)
Contents
・くおりあ庵から
・クオリアな人たち 第9回 郡司ペギオ幸夫
・Qualia Mystery Essay: アサギマダラが飛び立つ時
・私が出会ったクオリア by 西尾正典
・脳科学ニュース 言語と時系列予測
◆くおりあ庵(aka茂木健一郎)から◆
・函館にいます。暖かいです。
・現在発売中の
養老孟司・学問の挑発 「脳」にいどむ11
人の精鋭との論戦 日経サイエンス編集部編 日本経済新聞社
本体1400円 に「参戦」しています。よろしくお買い上げください。
◆クオリアな人たち◆ 第9回 郡司ペギオ幸夫
郡司ペギオ幸夫さんは、「現代思想」に掲載された一連の論文などを
通してカルト的な信奉者を持つ複雑系の研究者だ。
私が複雑系の研究会に出入りするようになったのは、98年の春頃
からだった。そして、複雑系の研究者は、カオスとか力学系だけではなく、
認識や世界のあり方に対するよりディープな探究を行っているということを
知った。その中でも、郡司さんは、もっとも前衛的な思索を行っている
人ということができる。
郡司さんの論文は読みにくい。私は、何となく、晦渋な哲学的言説を
はき続けるコムズカシイ人を想像していた。
郡司さんに直接御会いしたのは去年の春だった。サザンの桑田のような
人が派手なシャツを着てニコニコ笑っていた。
その時郡司さんが酒のみの小ばなしに選んだ題材で、私はすっかり彼に
惚れ込んだ。神さまから罰を受け、永遠に坂道で岩を押し上げる運命に
置かれた男が、その運命を自分の運命として受け入れた瞬間に自由に感じる
という話だった。
それから郡司さんと親しくつきあっているが、話題に選ぶエピソードの
背後にある文学的な慣性が素晴らしい。
酒の飲み方、カラオケの歌い方にも、「はにかむ野人」の気配が感じら
れて私は好きなのである。
郡司ペギオ−幸夫
生命と時間、そして原生−計算と存在論的観測 目次
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/doc/mot/gunji.html#1
◆Qualia Mystery Essay◆ アサギマダラが舞い昇る時
先週末に多摩動物園の昆虫館に行った。
昆虫館は、巨大なガラスのドームである。
その中にアサギマダラが舞っていた。
アサギマダラは、薄青緑色のバックグラウンドに薄赤茶色の網目
模様の入った美しい蝶で、風の流れを可視化したようにゆったりと優雅に
舞う。
小学校2年生の時、私は高尾山でこのアサギマダラを採集しようとして、
逃げられたことがある。
網を一振りしたら、あわてていたのか、網は大きく外れた。
次の瞬間、アサギマダラは、急激に上昇して、あっという間に
10メートルくらいの高さに上がってしまった。今迄優雅に舞っていた
のがウソのような、突然の行動の変化だった。
麦わら帽子を被った私は、呆然としてアサギマダラを見上げた。
今や私の手の届かない高みに至ったアサギマダラは、ひらひらと谷間
に消えていった。
少年の私が学んだように、アサギマダラには、危険を回避するために
急上昇するという行動特性を持っている。
昆虫館の中で、私は、自分の近くを舞っているアサギマダラの
すぐそばで手を振ってみた。
アサギマダラは、やや飛跡を変えて避けるようなそぶりを示したものの、
高尾山のアサギマダラのように急上昇することはなかった。
何回やっても、同じことだた。
人工飼育下のアサギマダラは、危険を避けて急上昇する習性を持たないの
だろうか?
私が考え込んでいると、隣にいた矢島稔さん(私たちは、大学院の時の
数人の仲間で、以前多摩動物園の園長をされ、昆虫館の設計にも携わった
矢島さんを訪問していたのだった)が、「ああ、それは、アサギマダラが
ここはガラスの天井が上にあると知っているからですよ。」
と言われた。
蝶のような小さな虫にも、自分が今閉鎖空間にいるということは
判ると言うのだ。
矢島さんによると、空気の流れで、どうやら判るのではないかという
ことだ。
もちろん、蝶に抽象的な空間の概念があるというわけではない。
閉鎖空間の中だということを知っていることを、実験的に検証できる
わけでもない。
それでも、私には、矢島さんの言ったことが、真実に近いように思えた。
それから、またいろいろ考えはじめてしまった。
アサギマダラの写真
http://www.konishi.co.jp/itami/ICMI/kikaku/98Migrat/asagi/asagi.html
◆私が出会ったクオリア◆ 第7回
西尾正典
愛知県在住 26歳
鰐の名前とクオリアと....
私は赤緑色弱だ。それもかなり重度らしい。ゆえに自分では白黒のボーダーシャ
ツを着ているつもりでも、他人から見た私はピンクと黒のボーダーシャツを着て街
中を歩いているという事態がままある。
そんなとき本当に難儀だなとつくづく思う。白とピンクの区別がつかないという
ことではない。私のもつクオリアとものの名称の重なりが、色彩という限られた世
界のことではあるが他人のそれとは明らかにズレていることを自覚させるからだ。
こんなことは北極圏に住む民族の中には白という色の中に何十種類もの区別をも
つ民族が存在することや、民族ごとに虹の中に見る色の数がまちまちであるという
視点から見ればたいしたことではないが、本当に難儀に思うのは私のクオリアが私
がいままで覚えてきた言葉やものの名称に縛られて自由になれないことだ。
そもそも世界を名称で刻まずにはいられない人類とは、クオリアの世界そのもの
に耐え切れずに名称で世界を隠した現実逃避の歴史を繰り返してきたのではないの
かと。その名状しがたいもののクオリアへの恐怖のあまり、言葉にあてはまらない
ものは存在を許されない名称の世界を創りあげることによって、そのクオリアの恐
怖から目をそむけたのではないのか。そして名称による世界の分類法以外にクオリ
アによる分類法が、並列なものに対して隠された直列なものとして存在する、いや
していたのではと。
もちろん最初の言葉は強烈なクオリアにうながされて生まれたのであろう。世界
の表現を共有する
人類の歴史の始まりとして。そして言語が試行錯誤の周り道のすえ整然と体系化さ
れるにつれクオリアはおせっかいな言葉達によって窮屈に絞め上げられてきたので
はないだろうか。
その幾世代もの積み重ねの中で「私」という反逆者が恐ろしいほど出現しては消
滅して。
そして詩の世界とは語感という言葉のクオリアによって名称以前のゾンビの世界
を蘇らせるクオリアの皮肉な復讐なのだろう。
はたして我々人類以外の、言葉で世界を傷つけぬ動物達はどのようなクオリアを
もっているのだろうか。そして我々の脳のコアにもひっそりとうずくまっている爬
虫類達は、どのようなクオリアで世界を自由に楽しんでいるのだろうか。
私はつかのまの時間でもいいから、ひっそりと湿った地面にうずくまる巨大な鰐
になって「初めに言葉ありき」の世界を踏み潰して名称以前のゾンビ系の世界をも
う一度だけ覗いてみたい。
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西尾正典はメルフレを募集中です。
上のエッセイの感想もお待ちしております。
masamany@lilac.ocn.ne.jp
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*編集人から
「私の出会ったクオリア」の原稿を募集します。
800字以内でお書きください。
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◆ 脳科学ニュース ◆ 言語と時系列予測
言語を喋るという行為は、ある規則を持った時系列の音を発する行為
だ。この規則を、私たちは文法と呼ぶ。
言葉を発する際の運動プログラミングを司っているのは、ウェルニッケ
野と呼ばれる脳の領域である。
アメリカのEmory UniversityのGregory BernsとAmanda Bischoff-
Gretheは、3月1日付のJournal of Neuroscienceに発表された論文の中
で、ウェルニッケ野が、言語以外の時系列の規則正しさを脳が認識すると
きにも活動していることを報告している。.
この実験では、スクリーン上の4つの四角が次々と青、赤、黄色のいずれ
かの色に光る刺激が提示された。被験者は、青い四角が何回表れたかを
覚えているように指示された。この時、実は、いくつかの試行において
色付きの四角は、決まった時系列パターンを持って出現するように
設計されていた。このようなタスクをやっている時の被験者の脳活動を
fMRIを用いて計測した結果、ウェルニッケ野が、提示される
四角形が予測できるような規則正しい時系列パターンを持っているかどうかを
モニターしていることがわかった。しかも、この結果は被験者が規則性を
意識しているかどうかに拠らなかった。
Emory University Health Sciences Center
http://www.emory.edu/
<END OF THIS ISSUE>
次号は、3月19日頃にお届けいたします。
お楽しみに!
===この話を聞け============================================
1週間後に迫る! まだ間に合います!
登録なさった方へ:事前に電子メイルによる御質問、御要望を
受け付けています。
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ー心が脳を感じる時ー
by 茂木健一郎
3月11日(土)、25日(土)東京、新宿住友ビル
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朝日カルチャーセンター 03-3344-1945(直通)
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http://www.asahi.com/information/acc.html
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===Qualia Mystery Recommends===========================
「私」について比類なき思考を積み重ねてきた永井均が、
自らの哲学とマンガを共鳴させた。
マンガは哲学する
永井均著
講談社Sophia Books
1400円。
前書きから
私がマンガに求めるもの。それはある種の狂気である。
現実を支配している約束事をまったく無視しているのに、
内部にリアリティと整合性を保ち、それゆえこの現実を
包み込んで、むしろその狂気こそがほんとうの現実では
ないかと思わせる力があるような大狂気。
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発行者:くおりあ庵=茂木健一郎 (脳科学者)
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