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=== Qualia Mystery ========================================

         クオリア・ミステリー

         Regular Issue 第26号 (2000/02/07)

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クオリア・・・それは、赤い色の感じ、サックスの音色、薔薇の香り、

絹の手触りのような、感覚をつくる様々な質感。

いかにして、物質である脳の中のニューロンの活動から、これほどまでに

豊かなクオリアが生まれるのか?

この問題こそが、心脳問題のハード・プロブレムです。

 

クオリア・ミステリーは、qualia-manifesto.comが提供しています。

http://www.qualia-manifesto.com/index.j.html

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[ Qualia Mystery #26] 

 

(2nd release of stage 4)

(8 issues planned for stage 4)

 

Contents

・くおりあ庵から

・クオリアな人たち 第7回 L'arc-en-ciel

・Qualia Mystery Essay: 世界の永遠について

・私が出会ったクオリア 第6回 by 雨崎良未

・脳科学ニュース フィールズ賞と心の理論

 

◆くおりあ庵から◆

 

 周囲に風邪を引いている人が多いのですが、皆さんは大丈夫ですか?

 今回の「私が出会ったクオリア」は、雨崎良未さんが投稿してください

ました。雨崎さん、ありがとうございます。

 2月9日発売の雑誌SPA!!でくおりあ庵が映画「マトリックス」と

心脳問題について語ります(チョコットだけです)。

 

◆クオリアな人たち◆ 第7回 L'arc-en-ciel

 

 L'arc-en-cielの新曲には痺れた。

 Neo Universeには、なんとも言えないあやうい未来のクオリアが漂

っている。

 私は、あまり日本のポップスを系統だって聴く方ではない。ほとんど

唯一聴く機会が、週末ドライヴしながらFMのカウントダウンを聴く時

だ。

 はじめて、ラルクのPiecesを聴いた時、これは妙な曲だなと思った。

それまで、日本のVisual系バンドの曲には独特の「くさみ」と「凡庸さ」

があって好きになれないと思っていたのだが、Piecesは、一つ突き抜け

た、明るい世界、例えて言えば、ニーチェの真昼に到達しているように

感じられたからだ。

 ラルクのarkというアルバムを買ってわかったのだが、Piecesは、ど

うも彼等の曲の中でも例外的にいい曲のようだ。Heaven's Driveなど

は、普通のVisual系(例えばGlay)と一連なりの曲に聞こえる。ラル

クは、Piecesで、どこか新しい天地に達したのではないか。

 Piecesという曲と、WagnerのSiegfried2幕でBrunnhildeがいき

なりジークフリート牧歌のメロディーで歌い出すところと、Beatlesの

Here comes the sunには共通のクオリアがあって、私はそれを「23

世紀のクオリア」と表現して来た。今回、ラルクのNe UniverseのPVは、

25世紀の宇宙をイメージしているという。ガーン。2世紀も先にいか

れてしまった。やはり、ラルクはあなどれない。

 

◆Qualia Mystery Essay◆ 世界の永遠について

 

 ここのところ、クオリアという難問を解決するには、ニュートン的な

世界観が確立する前の、例えばスコラ哲学あたりまで遡って一度考えて

みるのもいいのではないかと思い、時間が空いた時にインターネット上

でスコラ哲学のresourceを捜している。

 そんな中、トマス・アクイナス(Thonas Aquinas 1225-74)の

「世界の永遠について」(On The Eternity of the World, DE AETERNITATE MUNDI)という論文を見つけた。

 面白かった。

 もし、カトリックの教義が教えるように、神が世界を創ったというのな

らば、世界には時間的に始まりがあることになる。

 しかし、一方では、神によって創られたものが、実は永遠に存在してき

たものであるという考えかたもある。

 あるものが神によって創られ、しかも永遠の過去から存在しつづけたと

いうことが果たして論理的に可能なのかどうか、検証しよう。

 アクィナスは、このような問題提起から議論を始める。

 宇宙が、現代的に言えばBig Bangの時に神によって創造されたものなら

ば、それが永遠に存在したということはあり得ない。そんなことは当たり

前だと現在の我々は思い、だからこそ宇宙の「年令」ということを問題に

するわけだが、アクィナスは、「神によって創られ、しかも永遠に存在す

る」ということが可能か、しつこく議論するのである。

 アクィナスは、神によって創られた世界が永遠に存在するということが

矛盾を生じる可能性は、

(1)原因が結果より先になければならない

(2)「無」が創造物より先になければならない

という理屈によってもたらされるとする。

 (1)について、通常、原因(cause)は、結果(effect)よりも先に

あるとされる。しかし、アクィナスは、実際には、「原因が結果と同時で

あるということがあり得る」とする。これは、相対性理論の相互作用の世

界線に沿って固有時が経過しないという結論と関連していて興味深い。

 (2)について、アクィナスは、「無からつくられる」というのは、時

間的な順序(order of time)を言っているのではなく、「自然の順序」

(order of nature)を言っているのであるから、「無」が存在よりも「時

間的に先に」なければいけないということはないとする。

 上のような考察から、アクィナスは、神が創った世界が、永遠に存在し

ていたということは矛盾しないと言う。

 アクィナスの議論からは、科学を成立させる上で欠かせない実証主義が

欠けている。一方で、「神によって創られ、しかも永遠に存在することが

可能かどうか」という、現在の我々なら最初から「そんなもん判らん」と

いって放棄してしまうようなことをギリギリまで追究する、現代とは

全く異なる知性のあり方がここにはあるのである。

 物質である脳の中のニューロンの活動から、いかにして「赤い色の感じ」

などのクオリアがうまれるのか、これは、経験科学で解けるかどうか、

判らない問題である。アクィナスの時代には当たり前だった知性の回路を

開くことがどこかで必要とされる可能性は、否定できないだろう。

 

 

Thomas Aquinas:

On The Eternity of the World

(DE AETERNITATE MUNDI)

http://www.fordham.edu/halsall/basis/aquinas-eternity.html

 

◆私が出会ったクオリア◆ 第6回

 

雨崎良未

フリーター。素人による素人〜玄人のための情報サイト

「進化心理学・人間行動生態学/進化研究と社会」を運営。

mailto:new_sphere_@mbb.nifty.ne.jp

http://homepage1.nifty.com/NewSphere/EP/

 

   古い図書館か何かのうすぐらい、壁が書棚で

   埋まっている部屋の入口で、「うわ〜、もう

   何時間も本探しているのになぁ…」と途方に

   暮れて、

目が覚める。

 覚めたといっても、そこはトンネル工事の現場、私は交通誘導のバイトで、2km

あるトンネルの真ん中でトランシーバーを持って片側交互通行の連絡中継をやってい

る最中。

 手にしているトランシーバーから、すぐさま「ラストナンバー05で乗用3台通

過!」と一方のトンネル出口からの連絡が入ってくる。

 一瞬のうちに見た夢。私はこういう一瞬の夢(もしくは幻覚)の経験が多い。

 もともと職の定まらないフリーター、よくお世話になる交通誘導職もベテランの域

になってしまっていて、歩きながら寝る(&夢を見る)ことができてしまうほど。

 上の夢が印象強かったのは、なんといっても”一瞬の夢”が、時間感覚、それも

「もう何時間も…」という時間経過感覚をくっきり伴っていたこと。さすがに目覚め

てから「げ、何時間も無線中継をせずに立ち寝してたのか!?」と唖然としてしまっ

た。

 実際は何も業務に支障はなかったわけで、やはり一瞬のうちに見た夢だったらしい。

 

   シミュレーターの黒いスクリーン上に、

   レーダー反応の白いドットが現れる。

   そのドットはふらふらと動き回り、それ

   がひどくおかしくてゲラゲラ笑いながら、

目が覚める。

 これは普通に寝床で目覚めた夢だったが、困ったのは、目が覚めてからどう考えて

も少しもおかしくない夢だったこと。だってただ「ドットが動いているだけ」だった

んだもん。

 当時はゲームボーイの「X」(レーダーにドットが映るゲーム)にはまっていたの

で、そのせいだとはわかるのだけれど、ゲームにしても別段笑える内容のものではな

いし、『脳のなかの幽霊』第十章にも言及のあった”笑いの回路”あたりが何かちょ

っかいを出したのだろうか。

 

 一度、全身麻酔をされたことがある。

 気を失う瞬間、目が覚めるまでの朦朧とした状態&幻覚のこと、どちらも(覚えて

いる範囲で)よく覚えている。

 ふだんからして、車内(運転中はない)、デスクワーク中、立哨業務、業務での歩

行移動中など、疲労困憊していると瞬間的な眠り&夢を見ることが少なくない。そし

てそれら瞬間的な夢:幻覚の多くは強いリアリティ(ここでは「クオリア」と言

ったほうがいいのかな)を伴っている。

 

 意識なんてものは泡沫だな、と思う。

 今感じているこのリアリティと同じリアリティを、夢:幻覚はあらわしうる。意識

が混濁してもリアル、意識がはっきりしているつもりでも混濁した夢と大差ない現実

感。もしくは現実が残す記憶と同程度のリアリティの記憶を残す幻覚たち。

 たぶんいまわの際も、同程度にリアルな幻覚を見ながら私は脳死していくんだろう。

 

 突然時間経過を感じさせる脳。意味もなく笑いをもたらす脳。etc...

 他の人間は、起きている自分の感じるリアリティに自信を持っているように見え

る。自分の感じるもの伝えるものに自信を持っているように見える。たぶん実際に自

信を持っているのだろう。

 それを不思議に感じる私がおかしいのか、それとも幻覚と現実(の記憶)に同じリ

アリティを感じる私がおかしいのか。

 人間の意識と幻は紙一重、いつあちらの世界(死、そして幻覚)に踏み込んでもお

かしくない泡沫の意識なのだと覚悟している私、おのれの脳の限界に不信を感じてい

る私はおかしいのだろうか。

 

 なんとことを思っている今日この頃の私なのだった。

 また忙しくなったら変な夢を見るんだろうなぁ。

 

 

====================雨崎良未の広告================================

 

随時関連情報募集しています、お気軽にどうぞ。

進化心理学・人間行動生態学/進化研究と社会

      移転しました ↓

http://homepage1.nifty.com/NewSphere/EP/

 

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*編集人から

 

「私の出会ったクオリア」の原稿を募集します。

800字以内でお書きください。

採用の方は、発行部数2300部以上のこのメルマガで、

10行以内で好きなことを広告ができます。

御投稿は、kenmogi@qualia-manifesto.comまで。

 

◆ 脳科学ニュース ◆ フィールズ賞と心の理論

 

 他人の心を推測する「心の理論」の能力は、人間の認知発達において、

重要な役割を果たしていると考えられている。

 自閉症(autism)の子供は、心の理論の能力を欠いていると言われる。

しかし、最近の研究によれば、必ずしも全ての認知能力が、心の理論に

依存しているわけではないらしい。そのことをドラマティックに示す研究

が出た。A Mathematician, a Physicist and a Computer Scientist with

Asperger Syndrome: Performance on Folk Psychology and Folk Physics Tests

Simon Baron-Cohen, Sally Wheelwright, Valerie Stone, and Melissa Rutherford

Neurocase, Volume 05, Issue 6, pp. 475-483によると、重度の自閉症であると

考えられるAsperger Syndromeの症状を見せる人で、数学界のノーベル賞と言われる

フィールズ賞を受賞した人がいると言う。この人と物理学、コンピュータ・サイエンスの

学生に目の表情から心の状態を読み取らせる「心の理論」のテストをしたところ、

やはり心の理論には欠陥があることが見い出された。このことから、「心の理論」

の能力を持つことが認知の能力全体にとって必要不可欠だというわけでは

なく、「心の理論」とはある程度無関係に発達する知性もあると考えられる。

 おそらく、文学的知性は、「心の理論」との相関が高いのではないかと私は考える。

有名な作家でAsperger Syndromeの人がいるかどうか興味があるところである。

 

Neurocase, Volume 05, Issue 6, pp. 475-483: Abstract.

http://www3.oup.co.uk/neucas/hdb/Volume_05/Issue_06/050475.sgm.abs.html

 

 

<END OF THIS ISSUE>

 

次号は、2月21日頃にお届けいたします。お楽しみに!!!

 

 

===この話を聞け============================================

 

 1か月後に迫る!

 秘蔵ビデオも出す予定。

朝日カルチャーセンター公開講座

「脳と心、科学と文学」

ー心が脳を感じる時ー

by 茂木健一郎

3月11日(土)、25日(土)東京、新宿住友ビル

朝日カルチャーセンターにて

申し込みは(入会金不要)

朝日カルチャーセンター 03-3344-1945(直通)

http://www.qualia-manifesto.com/asahi-culture.html

http://www.asahi.com/information/acc.html

 

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===Qualia Mystery Recommends===========================

 

 絵がいっぱい載っていてよい。

 「脳と心の地形図」

 リタ・カーター著、藤井留美訳

 養老孟司 監修 原書房。 最近出ました。

 

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○電子メールマガジン「クオリア・ミステリー」2000/02/07

発行者:くおりあ庵=茂木健一郎 (脳科学者)

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