=== Qualia Mystery ========================================
クオリア・ミステリー
Regular Issue 第25号 (2000/01/25)
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クオリア・・・それは、赤い色の感じ、サックスの音色、薔薇の香り、
絹の手触りのような、感覚をつくる様々な質感。
いかにして、物質である脳の中のニューロンの活動から、これほどまでに
豊かなクオリアが生まれるのか?
この問題こそが、心脳問題のハード・プロブレムです。
クオリア・ミステリーは、qualia-manifesto.comが提供しています。
http://www.qualia-manifesto.com/index.j.html
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[ Qualia Mystery #25]
(1st release of stage 4)
(8 issues planned for stage 4)
Contents
・くおりあ庵から
・クオリアな人たち 第6回 マーヴィン・ミンスキー
・Qualia Mystery Essay: ヒューマノイドの誘惑
・私が出会ったクオリア 第5回 by 相川麻里子
・脳科学ニュース 人工視覚
◆くおりあ庵から◆
今号からstage 4が始まります。クオリア・ミステリーを、少しづつ進化させていこうと思います。
どんな方向に行くのか、まだ見えないのですが(^0^);;
(こうやって書くと、真ん中は鼻のようですね)
よろしく御愛読をお願いいたします。
今回、「私が出会ったクオリア」でははじめて投稿作品を掲載させて
いただきました。相川さん、ありがとうございました。
引き続き、「私が出会ったクオリア」の御投稿をお待ちいたしておりま
す。
また、その他の記事も、御投稿いただければ、掲載を検討させていただ
きます。
御投稿は、
kenmogi@qualia-manifesto.com
まで。
◆クオリアな人たち◆ 第6回 マーヴィン・ミンスキー
つい最近竹内薫が訳了し、近日徳間書店から発売予定の「科学の終焉2」
(仮題、原著The Undiscovered Mind, by John Hogan)の中で、ミンス
キーがフロイトのことを好意的にとらえているので意外な気がした。
ミンスキーとは、脳の研究をはじめたばかりの1992年に九州で開かれた
会議で話したことがある。懇親会場で、立派な体格の
ミンスキーがビールを片手に当時まだまだその引き起こした波紋が収ま
っていなかった
ペンローズの「皇帝の新しい心」をこき下ろしていたのが印象的だった。
「人間の意識が、非計算的なこと(チューリング・マシーンにはできないこと)
をやっているなんて、とんでもない。ペンローズは、自分が他の人間より
頭がいいことを鼻にかけて、ありもしないことを吹かしているだけだ。」
若い時は、簡単に反発を覚えるものである。ミンスキ
ーは、人工知能の世界的大家だが、言っていることは常識的なことだ、
その時の私はそう考えた。
だが、ミンスキーは、思いのほか奥行きのある人間なのかもしれない。
彼は、自らが創始したニューラル・ネットワークの研究の有効性を後に
否定するような男だ。フロイトを評価するところを見ても、単純な
機能主義者とは片付けられないところがあるのだろう。
最近、ミンスキーの楽天主義の背後に、様々なものを通過した男の苦味
のようなものを感じるようになった。
◆Qualia Mystery Essay◆ ヒューマノイドの誘惑
ホンダのヒューマノイド・ロボットがきっかけとなって、急速に
人間型ロボットをつくろうという気運が盛り上がっている。日本の
ヒューマノイド研究の名門と言えば故加藤一郎さんの流れを組む
早稲田のグループだが、ある研究者は、「ずっと静かにやって来たのに、ここ
に来てあれよあれよという間に注目を浴びるようになった」と言う。
日本では、鉄腕アトムなどのロボットを主人公にしたアニメや映画の
伝統があり、人間と似た人工機械を作ることに対する宗教的な
抵抗が少ない。ロボット技術は、日本が世界をリードする数少ない分野で
あり、近い将来日本の「アポロ計画」としてのヒューマノイド計画が立ち
上がることになるのかもしれない。
ところで、ヒューマノイドを作るということは、結局、我々が「人間」
という存在をどのようなものとしてとらえているか、我々の人間観が
問われることに他ならない。単に、人間型のロボットが、2足歩行をすれば
いいのか? あるいは、歩きながら喋ればいいのか? 顔の表情は?
みかけ上、人間のような振るまいをすれば、心があるかどうか、感情が
あるかどうかは問わないのか? もし、人間そっくりができたら、我々は
そのヒューマノイドの権利のようなものを認めるのか? 勝手に、電源を
切って良いのか? 幸か不幸か、ブレードランナーの主人公のような哲学的
な問題に悩まされる状況は、当分生じそうもない。なぜならば、ヒューマノ
イドを作る上での様々な技術的困難は、極めて大きいからだ。例えば、人工
筋肉一つとっても、また皮膚感覚のセンサーを考えても、ましてや脳の
情報処理機構の解明、その実装を考えても、解決しなければならない科学
的、技術的問題は山積している。
将来、ある程度「人間そっくり」なヒューマノイドが仮にできたとして、
我々はその「性能」をどのように評価すべきなのか? ヒューマノイドの
「チューリング・テスト」は、コンピュータ・スクリーンを通した
「チューリング・テスト」と異なるものになるのか? ヒューマノイド・
チームが人間のワールド・カップ優勝のサッカーチームと戦って
勝つかどうかを問題にすべきなのだろうか?
私自身は、「ブレードランナー・テスト」が重要だと思う。すなわち、
人間がヒューマノイドと恋に陥るかどうかである。恋愛においては、
相手の外見だけではなく、「物語力」のようなものが重要である。相手が、
世界をどのように捉え、その中でどのように生きていこうとしているか、
その「物語」の力が問われるのだ。物語力とは、まさに、人間で言えば
脳の情報処理能力の核心にあるものである。人間を恋に陥らせるためには、
ヒューマノイドは、美しい外見だけでなく、高度の物語力を支える
情報処理能力を持たなければならない。「ブレードランナー・テスト」
に合格することは、それほどやさしくない。
◆私が出会ったクオリア◆ 第5回
相川 麻里子
市井の人。
目下、行きたい学校があるのだが、学費が貯まらず途方に暮れているところ。
同姓同名のバイオリニストがいますが、当然別人です。
姓名判断は当てになりませんね。
愛するものはチョコレートとコーヒーと山野の草花。
E-mail: ai-mari@mbd.sphere.ne.jp
珍しいことにクラシックの演奏会に行った。弦楽四重奏だ。「珍しいことに」と始め
に断りを入れるくらいだから、クラシックには明るくない。当日の曲目は、プログラ
ムを引っ張り出すと、まず、「シェーンベルク:弦楽四重奏曲 第1番 ニ短調 作
品7」とある。難しく考えたって私に技巧的なことなどわかる訳ない。ただ感じるま
まに感じるしかないのだろう。
初めて聴くその曲は、難解極まりない曲だった。
第一バイオリンの細くて強い絹糸の旋律に、音が絡まりあう。追いかける。親密に寄
り添い、突き放す。見る見るうちにそれは精緻に織り込まれたタペストリーとなっ
て、演奏者の上をうねりながら流れていく。あるいは渦巻いている。
そして突然の沈黙が呼ぶ緊張。空間は身動きすれば破裂しそうに張りつめた空気で満
たされる。
また空間を切り裂く一筋の弓。
様々な色や温度や質感が次々に重ねられてゆく。絵にならない。まとまらない。流れ
てゆく。まったくの抽象だった。未知の音楽は私の中で形にならずに、ぽろぽろとこ
ぼれて、あまりの捉えどころのなさに、いつしか私は音々に包まれて心地よく眠りに
落ちてしまったのだった。ヴァイオリンの音色には1/fの揺らぎがあるんだっけ・・
・などと思いつつ。
その次の演目、「ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第2番 ト長調 作品18-2」のわ
かり易いこと。わかり易さ故にスタンダードなのか。我々がこれをスタンダードとし
てきたことによってわかり易く感じられるのか。演奏の間、ぼんやりとそんなことを
考えていた。
私は思う。ベートーヴェンには私に理解できる文法があったのだ。シェーンベルクに
は私の知る言葉がない。文法がない。故に物語にならない。
だけど私は、そのシェーンベルクの音楽にこそ、鮮やかで奔放な絵画のような何かが
見えたのだった。途中寝てしまったけれども。
一頃ベストセラーとなった「絶対音感」という本の文中に、音が色で見える人がい
る、とあったような気がする。私自身は絶対音感とは程遠いところにいるのだが、こ
の日の私には音が形を現してくれた。聴覚に呼び起こされた視覚が、不思議な幻影を
見せてくれたのだった。音に色が見える、という人の感覚も、なんだか少しわかるよ
うな気持ちがした。
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*編集人から
「私の出会ったクオリア」の原稿を募集します。
800字以内でお書きください。
採用の方は、発行部数2300部以上のこのメルマガで、
10行以内で好きなことを広告ができます。
御投稿は、kenmogi@qualia-manifesto.comまで。
◆ 脳科学ニュース ◆ 人工視覚
最近、人工視覚のニュースが話題になった。
患者は、22才の時に片目を、36才で両目を失明して、現在62才の
男性。脳の後頭部にある第一次視覚野を64個の電極を並べて直接
刺激する方法をとった。この64個の電極は、視野で言えば、「腕の長さ
の距離で、8インチ×3インチの領域」に対応するという。視野全体から
見れば小さく、「トンネル」のような領域の情報が男性の脳に来ている
ことになる。信号は、292 x 512 ピクセルのCCDカメラから、120 Mhz,
32 MB RAM, 1.5 GB Hard Disc driveのサブノートコンピュータを通して
送られている。信号は白黒で、グレースケールも試してみたが、あまり
結果が思わしくなかったという。フレーム・レートは、毎秒4フレームが
最適のようだとされている。
男性は、1978年にこの装置を埋め込む手術を受け、それ以来20年以上
にわたってこの装置を使ってきた。現在では、ニューヨーク近辺の公共
交通機関を自分一人で乗りこなせるという。もともと、この装置は、
物体認識をさせるというよりは、患者が自力で移動する際の補助に
なることを目的としていた。しかし、患者は、簡単な文字などは
識別できるようになった。
このような原始的な装置でも、ある程度の成功を収めたのは、第一次
視覚野の皮質上の場所と、視覚における視野の中の位置の間に対応関係が
あるからである。
http://www.artificialvision.com/vision/index.html
で論文をdownloadできるようになっているので、興味のある人はのぞいて
みよう。
<END OF THIS ISSUE>
次号は、2月7日頃にお届けいたします。お楽しみに!!!
===この話を聞け============================================
1か月半後に迫る!!
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by 茂木健一郎
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===Qualia Mystery Recommends===========================
ー類い稀な文学的センスが、このコメディアンを支えていたー
ビートたけし著
「菊次郎とさき」
新潮社 1000円 本屋で売っている。
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○電子メールマガジン「クオリア・ミステリー」2000/01/25
発行者:茂木健一郎 (脳科学者)
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