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=== Qualia Mystery ========================================

         クオリア・ミステリー

         Regular Issue 第22号 (1999/12/12)

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クオリア・・・それは、赤い色の感じ、サックスの音色、薔薇の香り、

絹の手触りのような、感覚をつくる様々な質感。

未来は現在と違うものでありうる。それが、<未来感覚>です。

クオリアは、今の人類の<未来感覚>の中枢にあります。

クオリア・ミステリーは、qualia-manifesto.comが提供しています。

http://www.qualia-manifesto.com/index.j.html

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[ Qualia Mystery #22] 

 

(6 th release of stage 3)

(8 issues planned for stage 3)

 

Contents

・くおりあ庵からのお知らせ

・クオリアな人たち 第3回 メニューイン

・Qualia Mystery Essay: トポロジーと心脳問題 

・「私が出会ったクオリア」 第3回 加藤夢唯

・脳科学ニュース 海馬の二重の役割

 

◆くおりあ庵からのお知らせ◆・

 

 メイル・マガジン発行人、くおりあ庵(茂木健一郎)の、「科学者を

やめようと思った理由」と題するエッセイが、「潮」2000年1月号

に掲載されています。沖縄、那覇のライヴハウスを訪れた

時の体験を綴ったものです。

 

◆クオリアな人たち◆ 第4回 後ろを向いてーメニューイン

 

 イェフディ・メニューイン(Yehudi Menuhin)(1916-1999)は、天才

ヴァイオリニストとして幼少時から活躍し、後半生は、指揮者としても

活動した。

 ある時、私は、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで、彼が

指揮するヘンデルの「メサイア」を聴くことができた。

 第一部の最後には、有名な「ハレルヤ」コーラスがある。

感動したイギリス国王が立ち上がったという故事にならって、コーラスが

始まる前に、全員が立ち上がる。ちょうど、大リーグの野球で

言うseventh inning stretchのようだ。もともと、ロイヤル・アルバート

・ホールは、巨大なドーム野球場のような形をしていて、この比喩はそれほど

不適切ではない。

 休憩を挟んで、第二部が始まる時間になった。指揮者のメニューインは、

オーケストラの前に立って、今にも棒を振りおろしそうになった。その

時、遅れて会場に戻ってきた人たちのざわめきが聞こえた。メニューヒン

は、指揮棒を上げたまま、後ろを振り向いた。その人たちは座ったが、

後から、また遅れてくる人たちがいた。三々五々人々がやってきて、全員

が座り終わるまで、5分くらいかかった。その間、メニューインは、指揮

棒を上げて、後ろを向いたそのままの姿勢で、待った。そこには、まるで、

一本釣りをしている漁師が魚がかかるのをまっている時のような静謐

があった。

 やがて、最後の客が座ったのを見て、メニューインはおもむろに前を

向き、指揮棒を振りおろした。

 あの日の演奏の内容は全て忘れてしまったが、音楽というものに真剣

に向き合う彼の精神の象徴として、メニューインが後ろを振り返って指

揮棒を上げたまま静止している姿が、目に焼き付いている。

 

ークオリアな人たちは、クオリア(質感)を大切にする人たちとの

出合いを綴ったエッセイですー

 

◆Qualia Mystery Essay◆ トポロジーの問題

 

 

 最近、トポロジーの問題が気になっている。

 右手、左手それぞれの親指と人さし指の先を付けて環をつくり、

その環をからませた状態をつくる。この状態から、環をほどくことは、

指の先を離さないとできない。逆に、右手と左手の環が離れている

状態から、指の先を離さないで二つの環を絡ませることはできない。

 ズルをしない限り、上の結論は正しいように見える。

 ところが、人間がもし粘土のように自由に形を変えられるとすると、

結論が変わってくる。右手と左手の環が絡んだ状態から、離れた状態

への変化、その逆の変化が可能なのだ。つまり、両手の環が絡んだ

状態と、離れた状態は、トポロジカルには同じだということになる。

 どうやって変形するのかというと、片方の環の片端を、もう一つ

の環の腕の上まで持ってくる。それで、環の腕の上で、片端をぐるりと

回すと、見事環が外れるのだ。

 トポロジーと心脳問題がどう関係するのか、疑問に思う人も

いるかもしれないけど、最近、どうも関係するのではないかという気が

してならない。

 上の変形の時に、一方の環の「端」を、もう一つの環の腕の上に持って

くるというのが、とても「怪しい」のだ。ここで、自己同一性の危機

というか、揺らぎが起こっている。「環」が「環」ではなくなっている。

この変形を描いた図を見せると、多くの人は「ずるい」と言う。

普段は絶対に起こらないことが起こっているからだ。なぜ絶対起こらない

かと言えば、人体を始めとする物質がぐにゃぐにゃと曲がらないところ

に問題があるのではなく、日常生活では、環は環として「尊敬」され、

環の腕にもう一つの環の端がのるような、「自己同一性の危機」は

訪れないからだ。

 物質である脳に、なぜ、クオリアに満ちた心が宿るのか。この問題は、

トポロジーの世界の環外しと同じような、「自己同一性の危機」、

別の言い方をすれば「ずるいこと」を経過しなければ解けないのだろう、

最近はそんな感じがしてならない。

 

◆私が出会ったクオリア◆ 第3回

 

加藤夢唯 (Mui Katoh)

VoidSpace主宰。イラスト、音楽制作、programming、webdesignなど、多彩

な活動を展開するアーティスト。ミステリー作家湯川薫の公式ホームページ

(http://kaoru.to)のディレクションもしている。

katoh@voidspace.com

http://www.voidspace.com/

 

私は雪が好きである。雪の降る様。一面に積もる様。キリキリと冷える朝、新

雪の上を歩く感触。夜、外灯に映し出される、舞う雪とその動く影。同じく太

陽光のある日に障子に映る、明るい雪の舞い。ふんわりとした綿のような新雪

に手を入れる時のすがすがしさ。雪の香。響き。さまざまな結晶の形の美しさ。

あたりの音を吸い込む柔らかさ。今日きっと初雪が来るというあの感じ・・・

 

積雪のある地域では、雪による災害が常時起こる。そんな毎日の中では、なか

なか声を大にして大人が「雪が好き」とは言いづらい。けれども大人になって

もやはりどうしようもなく好きなのである。めったに口には出さないけれど。

 

そんな雪の降る土地を離れて久しい。今いる場所では、みぞれは降っても、乾

いた雪を見ることはほとんどない。もうずいぶん冬という季節に出会っていな

い気分だ。雪の禁断症状を起こしていた私は、ある日店先で雪に良く似た響き

を持つモノに出会った。水晶の原石であった。私は大喜びでその透き通った水

晶の原石を買い求め、以来手元に置いている。六角柱のその原石の中には小さ

なヒビがたくさん入っていて、その様が私に雪の感覚を呼び起こすのである。

 

そんなある日のこと、私は、あるイベントの仕事で岩手県の花巻市にある宮沢

賢治記念館を訪れた。もう何度も来ている場所だが、大抵、夏か秋だった。そ

の時は冬。雪に会えるかもしれないと思って出発前からわくわくしていた。と

はいえ、花巻市は太平洋側である。それほど多く雪が降るわけではない。どう

か雪が降りますように・・・そんな子供のようなお願いを胸に、私は花巻市を

目指した。

 

その日、花巻市にはほとんど雪がなかった。降る気配もあまりなかった。それ

でも私は諦めずに、イベントの合間に外に出てみた。曇っている。降るかもし

れない。私は、賢治記念館のまわりの林のようになっている空間に走り込んだ。

降ってきた。雪だ。久しぶりに出会う雪!

 

雪は舞台にカーテンが降りるように、ゆっくりと世界に降りてきた。ひらひら

と、ひとつひとつはゆられるままに舞いながら、降る雪全体が降りてきた。瞬

間私は思った。

 

― 私は雪だ

 

私は雪だ。そう、私は雪なのだ。あたりと自分の区別が消えた。衝撃のような

感覚が体中を巡った。ひらひらと空気の中を舞う雪の一片でもあり、光を乱反

射する小さな結晶でもあり、舞う雪全体の時空でもあり・・・。私は、自分の

肉体の感覚を引き寄せるように取り戻すと、ありったけの感謝の気持ちをその

空間に放出して、少ない休憩時間が終わる前に会場に戻った。

 

雪の舞い。手元の水晶のヒビは動かないけれども、私はその水晶をみつめて、

そして視線を浮かせる。あたりに、自分の中に、雪の舞う感覚がよみがえる。

 

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記憶をテーマにしたささやかなエッセイをメールマガジンでお届けいたします。

 

★ MOAC −細胞の記憶− ★

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*編集人から

 

「私の出会ったクオリア」の原稿を募集します。

800字以内でお書きください。

採用の方は、発行部数2200部以上のこのメルマガで、

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御投稿は、kenmogi@qualia-manifesto.comまで。

 

◆ 脳科学ニュース ◆ 海馬の二重の役割

 

 海馬は、長期記憶の定着に必要不可欠な役割を果たしていると言われて

いる。人間において、海馬の機能が失われると、新たなエピソードの記憶

ができなくなり、「永遠の現在」に閉じ込められてしまう。

従来、ラットの海馬では、特定の場所に来た時だけ活動するplace

cellと呼ばれるニューロンが見い出されることから、空間記憶を担うという

機能があるとされていた。一方で、人間の海馬と同じように、エピソードの

記憶も担っていると考えられるところから、空間記憶とエピソード

記憶という二つの記憶の機能の関係が問題になる。

Distribution of spatial and nonspatial information in dorsal hippocampus.

Hampson et al. Nature 402, 610-614. (1999)は、ラットにDNMS(delayed

non-match-to-sample、二つの選択肢のうち、一つを提示し、その後、

一定の遅延時間の後、提示されなかった方の選択肢を選ぶと正解になる)

をさせながら、海馬に埋め込んだ多数の電極から、ニューロンの活動を

測定した。この結果、海馬のニューロンは、特定の場所(左の選択肢か、

右の選択肢か)に対して反応するものと、場所に関わらず課題の特定の

フェイズ(レバーを押す直前)に反応するもの、さらには、場所とフェイズの

組み合わせに反応するもの、試行のタイプに反応するものなどに

わけられることが判った。つまり、海馬では、長軸にそって、場所の情報が

コードされつつ、各場所の中に、場所に依存しない、記憶課題の特定の

要素に関連するニューロンが存在することがわかった。

 ある場所に来ると、その場所に関連した記憶が蘇ることがある。今回の

発見は、このような記憶の性質に関係しているのかもしれない。一方では、

人間の海馬とラットの海馬を単純には比較できない、「場所」とは何か

の定義が難しいなどの問題も残されている。

 

 

<END OF THIS ISSUE>

 

次号の予告

12月26日発行予定

 

・クオリアな人たち キリストのような哲学者

・Qualia Mystery Essay 言葉は行使しろ

 

などの予定です。お楽しみに。

 

===この話を聞け============================================

 

朝日カルチャーセンター公開講座

「脳と心、科学と文学」

ー心が脳を感じる時ー

by 茂木健一郎

3月11日(土)、25日(土)東京、新宿住友ビル

朝日カルチャーセンターにて

申し込みは(入会金不要)

朝日カルチャーセンター 03-3344-1945(直通)

http://www.qualia-manifesto.com/asahi-culture.html

http://www.asahi.com/information/acc.html

 

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===Qualia Mystery Recommends===========================

 

これは、最高の文学でもある。

広沢虎造

「清水次郎長伝」

まずは「江戸っ子だってね、寿司食いねえ。神田の生まれよ。」

の「石松金比羅代参」「石松三十石船道中」から聞こう。

テープは、1000円くらいで良く安売りテープ屋に売っています。

 

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○電子メールマガジン「クオリア・ミステリー」1999/12/12

発行者:茂木健一郎 (脳科学者)

電子メイル kenmogi@qualia-manifesto.com

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