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=== Qualia Mystery ========================================

         クオリア・ミステリー

         Regular Issue 第19号 (1999/10/29)

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クオリア・・・それは、赤い色の感じ、サックスの音色、薔薇の香り、

絹の手触りのような、感覚をつくる様々な質感。

未来は現在と違うものでありうる。それが、<未来感覚>です。

クオリアは、今の人類の<未来感覚>の中枢にあります。

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◆<日本経済新聞日曜日科学欄連載中 「意識のナゾ」をよろしく。◆

10/31の第9回記事のテーマは「記憶の不思議」。>

http://www.qualia-manifesto.com/nikkei.html

 

 

[ Qualia Mystery #19] 

 

(3rd release of stage 2)

(8 issues planned for stage 3)

 

Contents

 

・マイナーモデルチェンジについて

・クオリアな人たち 第1回 

「ロジャー・ペンローズはどのように鍵を見分けるか?」

・Qualia Mystery Essay: 「物語の優越」

・脳科学ニュース Classics: 両眼視野闘争における微妙な問題

・養老孟司、江崎玲於奈の出るイベント、11月2日のお知らせ

 

◆マイナーモデルチェンジについて◆

 

 Qualia Mysteryは、今号から、マイナーモデルチェンジをします。

発行間隔は、基本的に隔週となります。

「クオリアな人たち」の連載を始めます。第1回は、ロジャー・

ペンローズ。

今までの主要コンテンツだった心脳問題の解説は、Qualia Mystery

EssayとしてRenewalします。コンセプトは、

 

Crisp Experimentation(クリスプな実験)

 

です。

 

 

◆クオリアな人たち◆ 第1回 

「ロジャー・ペンローズはどのように鍵を見分けるか?」

 

 オックスフォード大学教授のペンローズは、ホーキングと一緒に一般

相対論の時空構造に必然的に「特異点」が存在することを証明したり、

「皇帝の新しい心」で意識がチューリング型の計算機で「計算可能」

な範囲の外にあることを主張したりしたことで知られています。

 OxfordのMathematical InstituteにPenroseを訪問した時のことです。

彼は、玄関で私を迎え、かぎたばをじゃらじゃらさせながら、自分の部屋に

向かいました。

「最近、あんまり部屋に行かないんだ」と言いながら。

ドアの前で、ペンローズは立ち止まりました。

どうやら、十数個はある鍵のうち、どれが部屋の鍵かわからなくなって

しまったようなのです。

ペンローズは、じっと、鍵を見つめました。

その様子を見ていた私は、おもわず吹き出しそうになってしまいました。

ペンローズは、なんと、部屋番号などが書かれている鍵のヘッド(頭)

の部分ではなく、鍵穴に差し込む部分の、切れ込みのパターンを眺めて

いたのです。

いくつかの切れ込みのパターンを眺めたあと、ペンローズは、

「うん、これだ」

というように、その鍵を鍵穴に差し込みました。

もちろん、部屋のドアは開きました。

ペンローズは、幾何学的直感の天才として知られています。

幾何学の天才は、切れ込みのパターンで、鍵を見分けるようです。

 

 

◆Qualia Mystery Essay◆ 物語の優越

 

物語は、古くから、人間の心を引き付けてきました。

聖書、源氏物語、そして、2001 A Space Odyssey

最近、私は、「個人の脳にやどる個人の意識」という考え方を

をこえるパラダイムが、物語

なのではないかという可能性を考えています。

ここで、物語とは、個々の要素ではなく、システムの全体を考えた時に

初めて立ち上がってくる意味のことをさします。

還元主義のプログラムは、システム全体の性質を、個々の要素の

間の相互作用から説明しますが、その逆に、システム全体を考えて

初めて立ち上がってくる意味=「物語」が、システムの中の個々の要素

のふるまいを決める。そのような、自然法則の書き方もあるのではないかと

思うのです。

RPGゲームのストーリーが、個々のビットを動かすと考えた方が、

個々のビットの相互作用から、RPGゲームのストーリーが動かされると

考えるより良い場合もあるだろうということです。

さらに、私達は、陽子や電子などの、個々の要素だけが「実在」で、

そのようなものからできたシステム、たとえば、人体などは、「状態」

ではあっても、陽子や電子と同じ意味での「実在」ではないと思いがちですが、

これもひょっとすると違うのではないかと思うわけです。

「人体」というシステムも、実は、陽子と同じくらいの実在なのではないか。

心脳問題に関して言えば、心という脳のシステム全体で立ち上がって

くるものが、その構成要素である電子や陽子、ニューロンなどと同じ

くらいの実在であり、能動的作用を持つ。そのような自然法則が

書ける可能性がある。

このような考え方が、「自由意志」の問題などについて潜在的に持つ

インパクトはすぐにわかると思います。

私たちひとりひとりの心は、世界にたくさん並列的に、入れ子構造に

ある「物語」の一つに過ぎないかもしれないのです。

このような「物語」を、なんらかの数学的形式で書くという

課題は、おそらくこれから100年単位の時間をかけて遂行して

いくような難問題だと思われます。

難しくても、少しづつやっていくしかないでしょう。

確かに、「物語」は世界にあふれているのですから。

 

 

◆ 脳科学ニュース ◆ Classics: 両眼視野闘争における微妙な問題

 

(今回から、時々、Classicな論文をもう一度読みなおすという企画を

「脳科学ニュース Classics」としてお届けします。)

 

 両眼視野闘争とは、右目、左目から入った情報のうち、どちらか一方

だけが、私たちの意識にのぼるという現象です。

 例えば、液晶シャッターを使って、視野の同じ位置に、右目からは

縦じま、左目からは横縞を見せると、心の中では、ある場所では縦じま

が、ある場所では横縞が見え、その見えの空間的パターンが時間とともに

ぐにゃぐにゃかわります。

 Logothetis, N.K. Schall, J.D. Neural Correlats of Subjective Visual

Percepiton. Science 245, 761-763 (1989)は、上に動く縞と、下に

動く縞の刺激を右、左の眼からそれぞれ入れ、その時猿の脳の運動視の

中枢であるMT野のニューロンがどのような活動をするかを調べました。

MT野のニューロンは、通常、ある特定の方向の動きに対してよく反応し

ます。ところが、この実験では、動きの方向だけでなく、その動きの方向が

両眼視野闘争において「心に見える」側にあるのか、「心に見えない」

側にあるのかが活動に反映されるニューロンも見つかりました。

さらに細かく見ていくと、これらのニューロンの活動は、非常に

興味深い性質をもっていることがわかります。例えば、右目と左目から

同じ方向の動きの刺激を入れたときにはあまり活動しないで、

、両眼視野闘争で、いったん競争がおこって、その結果好みの

方向が勝った時に

はじめて活発に活動するニューロンもあります。これらのニューロンは、

両眼視野闘争がおこっているかどうか、「知っている」ようなのです。

 

 

◆ 養老孟司、江崎玲於奈の出るイベント◆

11月2日のお知らせ

 

URL: http://www.tokuma.co.jp/nature/event.html

 

(第112回紀伊國屋セミナー)

 

科学に終わりはない!

 

ネイチャーが語る

先端サイエンスの今

『知の創造――ネイチャーで見る科学の世界』発刊記念イベント

 

日時 1999年11月2日(火)

会場 紀伊國屋ホール(紀伊國屋書店新宿本店4F)

開演 午後6時30分(開場午後6時)

入場料 1,700円(税込み、全席指定)

前売り 紀伊國屋書店新宿本店1階インフォメーション

電話予約 紀伊國屋書店事業部 TEL03-3354-0141

主催 紀伊國屋書店・徳間書店

 

ティム・リンカン

江崎玲於奈

養老孟司

竹内薫

 

<END OF THIS ISSUE>

 

===この本を買え============================================

 

 「本書は、たんなる脳科学の説明書ではなく、二十一世紀的思考法の

トレーニング本でもある。」

 

ー日本経済新聞1999年9月26日掲載の布施英利氏による書評よりー

 

<触れて感じる緑の表紙、心脳問題のiBook>

茂木健一郎 「心が脳を感じる時」

講談社より7月28日Release、1800円

 

http://www.trc.co.jp/trc/book/book.idc?JLA=99032824

 

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===Qualia Mystery Recommends===========================

 

Natureの最新科学ニュース欄、News & Viewsを世界で初めて

編集、1冊の本に。

これを買えば、科学のトレンドがわかる。

 

Nature責任編集、竹内薫 責任翻訳

「知の創造」 徳間書店

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○電子メールマガジン「クオリア・ミステリー」1999/10/29

発行者:茂木健一郎 (脳科学者)

電子メイル kenmogi@qualia-manifesto.com

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