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=== Qualia Mystery ========================================

         クオリア・ミステリー

         Regular Issue 第18号 (1999/10/09)

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クオリアとは、「赤い色の感じ」のように、私たちの感覚を構成する

ユニークな質感を指します。

クオリア・ミステリーは、科学的アプローチを基礎に、様々な側面

から心と脳の関係について考える未来感覚マガジンです。

このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を

利用して発行しています。( http://www.mag2.com/ )

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<日本経済新聞日曜日科学欄連載中 「意識のナゾ」をよろしく。

10/10のテーマは「ブラインドサイト」>

http://www.qualia-manifesto.com/nikkei.html

 

[ Qualia Mystery #18] 

 

(2nd release of stage 2)

(8 issues planned for stage 3)

 

Contents

・志向性の束としての<私>

・脳科学ニュース 欠けた部分を補う

 

●志向性の束としての「私」

 

 心と脳の問題を考える時、3つの難しい問題があるとされています。

 すなわち、クオリア、志向性、そして「私」の問題です。

 クオリア(qualia)とは、赤い色、ヴァイオリンの音、卓球玉を握っ

た時の感触、バナナの味、のように、私たちの感覚を構成するユニーク

な質感を指します。脳の中のニューロンの活動から、どのようにしてク

オリアが生まれてくるのか、これは、クオリアが、従来物質を記述する

のに用いてきた質量や電荷といった属性とあまりにも異なるだけに、非

常に困難な問題です。

 脳の中では、クオリアは、低次感覚野から高次感覚野に向かうニュー

ロンの活動のクラスターによって表現されていると考えらています。

 志向性(intentionality)とは、「○○に向けられている」という、私

たちの心の基本的な属性を指します。例えば、赤い色を見ている時、私

たちの心の中の表象は、赤い色のクオリアと、そのクオリアに向けられ

ている志向性に緩やかに分解することができます。クオリアと志向性が

出会うことによって、はじめて、私たちはあるクオリアを感じることが

できるのです。

 そして、「私」の主観性は、クオリアや志向性といった心の表象がそ

の中で起こる枠組みを与えています。クオリアも、志向性も、「私」と

いう主観性の枠組がなければ成立しません。千葉大学の永井均さんが言

]うように、自分という人間が、他の誰でもない「私」であるということ

が何を意味するのか、これは、ある意味では心脳問題の中でも最も難し

い問題であると言えるでしょう。

 もちろん、脳を物質からなる複雑なシステムとして記述することもで

きます。そのような従来の意味の自然科学の枠内に留まっている限り、

クオリア、志向性、「私」といった心の属性は、問題になりません。し

かし、一人の人間がこの世界に生まれ、やがて死ぬまでの生の実相に関

わるのは従来の意味での自然科学の対象とならない、私たちの心の属性

なのです。

 ところで、「志向性」と「私」という主観性の枠組みの間には、密接

な関係があると考えられます。志向性は、「○○に向けられている」と

いう心の性質ですが、このようなベクトルの起点になっているのが「私」

であるように思われます。脳の領域で言えば、志向性は、前頭前野から、

感覚野や運動野へ向かうニューロンの結合によって引き起こされている

と考えられています。志向性の起点は、前頭前野にあると言ってもいい

のです。

 上のように考えると、「私」の中枢も、前野前野にあるように思われ

てきます。果たして、主観性の座は、前頭前野にあるのでしょうか? 

 どうやら、それほど簡単な構図でもなさそうです。クオリアも、志向

性も、脳の中のニューロンのネットワークの中で、分散されて表現され

ていることがわかっています。「私」という主観性も、脳のシステム的

な性質として立ち上がって来るというのが正確です。その中で、前頭前野

が「志向性」の起点として機能していることは、第一次近似としては言

えそうです。しかし、だからといって、「志向性」の起点に「私」とい

う主観性の座があることにはならない。私たちは、意識の問題を考える

時、脳のどこかに小さな小人を起き、その「視点の原点」が主観性の座

であるというメタファーを使いがちです。しかし、それでは、無限後退

に陥ってしまう。今必要なことは、「私」を志向性の束としてとらえた

上で、そのような志向性と、クオリア、運動との相互作用を実現してい

る脳のシステム的な性質を少しづつ解明していくことなのです。

 

◆ 脳科学ニュース ◆ 「欠けた部分を補う」

 

 黒いバーの中央が灰色の四角形によって隠されている時、私たちは、

四角形の背後に、黒いバーが連続して存在し、それが四角形によって隠

蔽されている(occluded)と知覚します。この時、実際には隠されてい

る部分のバーは見えずに(その部分のクオリアは感じられずに)、「バ

ーは四角形の後側で連続している」という抽象的な知覚が存在するだけ

です。このような知覚を、アモーダル(amodal)な知覚と言います。

 ところで、この時、もし、自分の位置から見て、四角形のある場所が、

バーよりも「手前」側にあると感じられたら、その奥行き知覚は、「バ

ーが四角形によって隠蔽されている」という知覚と一致します。しかし、

四角形のある場所が、バーよりも「もっと奥側」にあると感じられると

したら、この奥行き知覚は、「バーが四角形によって隠蔽されている」

という知覚と矛盾します。したがって、奥行き知覚が、「バーは四角形

の後側で連続している」というアモーダルな知覚に影響をあたえるはず

です。

 Sugita, Y. Grouping of image fragments in primary visual cortex.

Nature 401, 269-272 (1999)は、視差(disparity)を用いて奥行き知覚

を制御することにより、猿の第一次視覚野でアモーダルな知覚に関与する

と思われるニューロンが、上の議論から予想されるような活動の変化を

見せることを見い出しました。すなわち、四角形がバーよりも「手前」

にある時には活発に活動するが、四角形がバーよりも「奥」にある時に

はあまり活動しないニューロンを見い出したのです。このニューロンは、

「バーは四角形の後側で連続している」というアモーダルな知覚を支え

る神経機構の一部であると考えられます。

 この研究は、基本的な情報処理を行なっているだけだとされてきた第

一次視覚野が、実は高次な情報処理を行なっていることを示す例として

注目されました。このような高度な情報処理は、第一次視覚野内のニュ

ーロンの結合とともに、高次視覚野からの逆投射によっても支えられて

いると考えられます。

 

===Released from Qualia-Manifesto.com====================

 

 「本書は、たんなる脳科学の説明書ではなく、二十一世紀的思考法の

トレーニング本でもある。」

 

ー日本経済新聞1999年9月26日掲載の布施英利氏による書評よりー

 

<触れて感じる緑の表紙、心脳問題のiBook>

茂木健一郎 「心が脳を感じる時」

講談社より7月28日Release、1800円

 

http://www.trc.co.jp/trc/book/book.idc?JLA=99032824

 

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===Qualia Mystery Recommends===========================

永井氏は、心脳問題の核心の未踏の荒野を、知的勇気をもって

歩み続けている。

 

<私>の存在の比類なさ

永井均著

勁草書房 2500円

http://www.trc.co.jp/trc/book/book.idc?JLA=98008034

 

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○電子メールマガジン「クオリア・ミステリー」1999/10/09

発行者:茂木健一郎 (脳科学者)

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