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=== Qualia Mystery ========================================

         クオリア・ミステリー

         Regular Issue 第17号 (1999/09/14)

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クオリアとは、「赤い色の感じ」のように、私たちの感覚を構成する

ユニークな質感を指します。

クオリア・ミステリーは、科学的アプローチを基礎に、様々な側面

から心と脳の関係について考える未来感覚マガジンです。

このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を

利用して発行しています。( http://www.mag2.com/ )

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[ Qualia Mystery #17] 

 

(First release of stage 2)

(8 issues planned for stage 3)

 

Contents

・お知らせ

・夢ー言葉に張り付けられる画像

・脳科学ニュース 脳のファイバーを追い掛ける

 

●お知らせ

 

 1999/05/25の発行以来、約3ヶ月の夏休みを頂いていたQualia Mystery

Regular Issueは、本号を持って再開いたします。

 3rd Stageは、8回のregular issuesの他に、remixなどの特別号も発行

する予定です。

 どうぞよろしく。

 

 *現在、発行者(茂木健一郎)が、日本経済新聞日曜日科学欄に

「意識のなぞ」を連載中です。機会がありましたらぜひ御覧下さい。

 

●夢ー言葉に張り付けられる画像

 

 夢は、私たちが経験する、もっとも身近な意識の変性状態(altered

states of consciousness)です。

 夢のもっとも不思議な属性の一つは、外界からの入力がないのに、意味

を持ったストーリーが自発的に出来上がってくるということです。ある意

味では、人は、夢において、もっとも創造的になると言っても、過言では

ないでしょう。

意味を持ったストーリーが自発的に出来上がってくるという夢の属性は、

それが、私たちの言語と深い関係を持つのではないかということを想像さ

せます。

私たちの発話のプロセスは、本質的に無意識です。私達は、言葉を発する

前に、あらかじめどのような言葉がうまれてくるか意識しているわけでは

ありません。いわば、私たちの無意識の中にいる「軟体動物」のような

ものが、言葉を吐き出してくるのであって、私たちの意識は、それを受

け取り、モニターし、ある程度の方向性を決めているだけなのです。

 夢の中で私たちが見るイメージも、言葉の発話を支える「軟体動物」

に似た、なんらかの「意味のダイナミクス」に支えられているように思

われます。

 言葉の意味を司っている脳の領野は、ウェルニッケ野(Wernicke's

area)です。ウェルニッケ野が損傷を受けると、言葉の発話自体には問

題がなく、言葉が流暢に発せられますが、その内容が意味のないものに

なります。

 ウェルニッケ野があるのは、上側頭回(Superior temporal gyrus)

と呼ばれる脳の領域です。ウェルニッケ野は、ほとんど例外なく左脳半

球に見い出されます。上側頭回には、ウェルニッケ野の他に、聴覚野が

あります。

 興味深いのは、この上側頭回を含む側頭葉が、視覚的幻覚(visual

hallucination)に深く関わっていることです。

 カナダの神経生理学者Penfieldは、側頭葉を電気葉を電気刺激した時

に、刺激を受けた人が、まるで現実にそれを体験しているかのような鮮

明なイメージを見ることを報告しています。また、最近の手術前に電極

を埋め込まれたてんかん患者を使った実験でも、側頭葉、特に、上側頭

回(Superior temporal gyrus)への電気刺激が、幻覚を引き起こす

上で有効であったとされています。

 これらのケースの場合には、患者は覚醒状態にあり、夢を見ている状

態とは異なりますが、外界からの入力なしで、意味を持った視覚的スト

ーリーが出来上がってしまう点では、夢と視覚的幻覚は共通です。

 このようなデータから、私達の見る夢が、現実とは違うが、それなり

の一貫したストーリーを持っているのは、夢を生成するモジュールに、

ウェルニッケ野における言語の「意味のダイナミクス」と類似のプロセ

スが関わっているからではないかという仮説が生まれてきます。

 つまり、夢というのは、その本質において言語的であって、夢の中の

視覚的イメージ、音の感覚などは、言語的プロセスをとおして生み出さ

れたストーリーに「張り付けられる」という仮説が成立するのです。

 意味を処理するウェルニッケ野は、視視覚、聴覚、体性感覚野からの

投射を受け、感覚のモダリティの具体性から一段階抽象度の増した「意

味」を扱っていると考えられます。このような、言葉の意味の「マルチ

モーダル」な性質も、夢に通じるものがあります。

 夢と言葉の意味は、どうやら近いところにあるようなのです。

 

◆ 脳科学ニュース ◆ 脳のファイバーを追い掛ける

 

 人間の脳を理解するためには、その解剖学のデータが不可欠です。

とりわけ、脳のどの領域とどの領域が、アクソンのファイバーで結合

しているかを調べることは、とても重要です。ところが、従来のアクソンの

トラッキングの方法では、組織が生きている時にトレーサーを注入する

必要があったため、人間の脳には適用できませんでした。このことから、

クリックとジョーンズがNatureに寄せた論文で嘆いたように

(Crick, F. & Jones, E. (1993) Nature (London) 361, 109-110)、

人間の脳の解剖学がなかなか進まず、脳科学における大きな障害になって

いました。

 Thomas E. Conturoらが最近発表した論文

Proceedings of the National Academy of Sciences 96, 10422-

10427 (1999)では、アクソンの内部で、アクソンの長軸方向に水分子が

移動しやすいことを利用し、MRI(磁気共鳴コンピュータ断層撮影)を

用いて、生きている人間の脳の内部のアクソンの追跡に、初めて成功しま

した。

 解像度の点など、この手法がどの程度人間の脳解剖学を進歩させるかは

まだ未知数ですが、注目すべき動きの一つと言えるでしょう。

 

===Released from qualia-manifesto.com====================

 

<私>の中心に近付くほど、クオリアの鮮明さは失われ、抽象的に

なっていく。

 

<触れて感じる緑の表紙、心脳問題のiBook>

茂木健一郎 「心が脳を感じる時」

講談社より7月28日Release、1800円

 

http://www.trc.co.jp/trc/book/book.idc?JLA=99032824

 

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===Qualia Mystery Recommends===========================

 

脳と人間

ー大人のための精神病理学ー

 計見一雄(けんみ・かずお)著 三五館

 

 本体2200円

 1999年7月発売

 

http://www.trc.co.jp/trc/book/book.idc?JLA=99027814

 

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○電子メールマガジン「クオリア・ミステリー」1999/09/14

発行者:茂木健一郎 (脳科学者)

電子メイル kenmogi@qualia-manifesto.com

http://www.qualia-manifesto.com/qualia-mystery.html

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