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=== Qualia Mystery ========================================

         クオリア・ミステリー

         第14号 (1999/05/06)

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クオリアとは、「赤い色の感じ」のように、私たちの感覚を構成する

ユニークな質感を指します。

クオリア・ミステリーは、科学的アプローチを基礎に、様々な側面

から心と脳の関係について考える未来感覚マガジンです。

このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を

利用して発行しています。( http://www.mag2.com/ )

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[ Qualia Mystery #14] 

 

(Release 6 of stage 2)

(8 releases planned for stage 2)

 

Contents

・言葉はメタファーを追いかける

・脳科学ニュース 「メタキャット」プロジェクト

 

●言葉はメタファーを追いかける

 

 以前、アイルランドのダブリンで開かれた「創造性」に関する会議に

出席したことがあります。この時、アイルランドという、イギリスから

見れば「周縁」の地に満ち満ちている先鋭で文学的な「言葉の感覚」に

非常に強い印象を受けました。会議を主宰していたTonyという人物が吐

く言葉は、科学者の機能主義的な言葉というよりは、美しい陰影やニュ

アンスに満ちた文学的な言葉で、ジョイスを始めとする文学者を輩出し

た伝統のようなものを感じずにはいられませんでした。

 この会議で、「メタファー」という新しい世界に目が開かれました。

例えば、海をハープに例えた時、私たちの心の中には、「海」という地

学的構造、「ハープ」という楽器に関する固定的なイメージを超えた、

ダイナミックに変化するあるプロセスが生まれてきます。そして、海で

もない、ハープでもない、ある未分化の何か、「軟体動物」のようなも

のが動きはじめます。このような「軟体動物」のようなものが吐き出す

言葉を拾うことができる人が、詩人なのだという気がします。(大江健

三郎は、以前、詩に比べると散文(彼が書いている小説も含む)は遥か

に程度の低いものであると言っていました)。ダブリンで出会ったよう

な、メタファーの持つ「軟体動物」としての属性に注目し、それと創造

性の間の関連性について研究している人たちが世の中にいることは、私

にとって新鮮なおどろきでした。

 それ以来、メタファーが棲む軟体動物の世界と、言葉の関係を考えて

きました。以下では、「比喩」という狭い意味を超えて、「メタファー」

という言葉を、言葉を生み出す「軟体動物の世界」の中で動いている心

的表象を指すものとします。(「軟体動物」という言い方自体が、一つ

のメタファーですが・・・)

 メタファーの世界に目覚めてからしばらくたって気が付いたのは、発

話のプロセスは無意識であるということです。

 私たちは、ある言葉を発する時に、あらかじめ何を話すか具体的に知

っているわけではありません。自分の口を突いて出る言葉に、自分自身

が驚く場合もあります。こんなことを言うんじゃなかったと、後悔する

場合もあります。私たちの意識は、発話のプロセスを、詳細にわたって

コントロールしているわけではないのです。

 では、私たちの意識がコントロールしているのは何かと言えば、具体

的な言葉より一つ「メタ」なレベルで、「大体こんなことを言おう」、

「こんなことは言うまい」ということ、すなわち、メタファーのレベル

のことなのです。

 一般に、言葉は、メタファーを追いかけて生まれてくるように思われ

ます。そして、この言葉がメタファーを追いかけて生まれてくるという

部分が、コンピュータに人間が吐き出すようなテキストを生み出させよ

うとする時に一番難しい点ではないかと思われるのです。

 例えば、意識と無意識の関係について、何か文章を書こうとする場合

を考えてみましょう。この時、意識は脳のこの部位のニューロンの活動

から生まれるといった、知識を持っていることは重要ですが、それだけ

では面白い(創造的な)文章は生まれてきません。文章を書く「勢い」

がつかないのです。少なくとも私の場合、文章のテキストがどっと勢い

良く出てくるのは、書こうとしているサブジェクトについて、何らかの

「メタファー」を獲得した時のように思われます。

 例えば、以前南の島で、岸壁に腰をかけて釣りをしていた人の浮子が、

青く輝く海面に揺れていたことを思い出すかもしれない。そして、海面

の下には様々な魚がいるが、それを私は見ることができないというイメ

ージが膨らんでいくかもしれない。私にできるのは、餌を付けた針を投

げ入れ、海面下の魚がそれにひっかるのを、浮子の動きを眺めながら待

つことだけだ、そのように思うかもしれません。このような「メタファ

ー」から、意識と無意識の関係についての文章を書きはじめることがで

きるように思います。もちろん、科学的文章にはならないでしょうが

(笑)。

 心と脳の関係について、本当に新しい、「向こう側に突き抜けた」こ

とを言うのは、難しい。将来、もしそのような言説が生まれてくるとす

れば、かならず、そのような具体的な言説が生まれる前に、心と脳の関

係についての、何か新しいメタファーが獲得されることになるのでしょ

う。そのメタファーとは、新しい世界観に関するものかもしれないし

(Qualia Mystery #10)、あるいは、「存在とは何か」という意味自

体を変更するようなメタファーかもしれない(Qualia Mystery Remix

by 塩谷)。いずれにせよ、私たちがテキストを通して示す創造性の本

質がメタファーのレベルにあり、また、いくら掴もうとしても掴みきれ

ない言葉の意味論の本質も、メタファーのレベルにあることは間違いな

いでしょう。

 

・関連URL

Mind II Conference (Dublin, Ireland 1997)

 

http://www.compapp.dcu.ie/~tonyv/mind.html

 

 

◆ 脳科学ニュース ◆ 「メタキャット」プロジェクト

 

Douglas R Hofstadterと言えば、「ゲーデル、エッシャー、バッハ」で

衝撃的なデビューを果たした人工知能研究者です。現在、彼はIndiana

Universityで研究を続けています。

彼の研究グループでは、アナロジーを見い出す人工知能プログラム

Copycatのprojectを行っていましたが、それを発展させたmetacatとい

うprojectを現在進行中のようです。Metacat projectは、Copycatに自己

反省の機能を付け加えることによって、例えばアナロジーの間のアナロ

ジーを見い出すというような、高度の言語機能を持たせようとする試み

のようです。

Metacat projectのwebsiteは、

 

http://ftp.cs.indiana.edu/research/dughof/metacat.html

 

ですが、ここにはあまり情報が掲載されていないようです。

Metacatについての論文は、

 

http://www.cs.swarthmore.edu/~marshall/home.html

 

にいくつかarchiveされています。

 

 

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○電子メールマガジン「クオリア・ミステリー」1999/05/06

発行者:茂木健一郎 (脳科学者)

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