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=== Qualia Mystery ========================================

         クオリア・ミステリー

         OUTDOOR SCIENTIST #1 (1999/06/12)

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クオリアとは、「赤い色の感じ」のように、私たちの感覚を構成する

ユニークな質感を指します。

クオリア・ミステリーは、科学的アプローチを基礎に、様々な側面

から心と脳の関係について考える未来感覚マガジンです。

このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を

利用して発行しています。( http://www.mag2.com/ )

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#Qualia Mystery Regular Issueは、2 stages, 16 issuesを刊行後、

現在夏休み中です。3rd Stageは、9月に再開予定です#

backnumbers

-> http://www.qualia-manifesto.com/qualia-mystery.html

 

 

[ Qualia Mystery] <Outdoor Scientist #1>

 

(1st release of the Outdoor Scientist Series)

 

Outdoor Scientist Seriesは、Qualia Mysteryの夏の特別企画として、

6月〜8月の間に数回発行される予定です。

 

Contents

・宙を舞う光の渦 1978年8月、Banff, Canada

・脳科学ニュース 「ミラー・テスト」

 

●宙を舞う光の渦 1978年8月、Banff, Canada

 

 今から20余年前の夏、高校1年の私は、カナディアン・ロッキーの

バンフで、キャンプをしていました。

 夜の底まで黒くなったころ、突然、地平線の上に、光の帯が見え始め

ました。光の帯は、視角で言うとせいぜい1°くらいの幅を保ちながら、

ゆらゆらと動き回りました。まるで生き物のように、大規模な変化がダ

イナミックに前触れもなく起こりました。

 オーロラだ。

 食事を終えて話をしていた学生のグループの私たちは騒ぎました。私

たちは、目を凝らして、遠い地平線の上に動く光の帯を見つめました。

無駄だと判っていながら、スナップ写真を撮ろうとする人もいました。

私は、ただわくわくしながら、それでも冷静さを保ちながら、光の帯を

見つめていました。生まれて初めてオーロラを見たのだから、もっと感

動すべきだと自分に言い聞かせていたかもしれません。

 様子が一変したのは、それから1時間ほど経った時のことです。短い

時間の間に、地平線の上に動いていただけの光の領域が、拡大していき

ました。そして、いつの間にか、全天が光の渦に埋め尽くされてしまっ

たのです。バンフの緯度で、これほど大規模なオーロラが見られるのは

おそらく非常に珍しいことで、太陽黒点の活動が非常に活発な時期だっ

たに違いありません。あまりのことにあぜんとする私たちの上で、コー

ヒーに溶かしたミルクのような渦が、信じられないほど大規模に、そし

てダイナミックに変化してしていきました。頭上に展開するオーロラは、

地平線の上をちらちらと舞っていた時とは段違いの、私たちの全存在を

押しつぶしそうな圧倒的な存在感で、そこに臨在したのです。

 今度は、「もっと感動すべきだ」と自分に言い聞かせる必要はありま

せんでした。むしろ、平静を保つのが大変なほどでした。自分と言う人

間のスケールに比べて圧倒的に巨大な自然現象が、すぐそこでまるで生

き物のように動いている様子は、その美で私を感動させるとともに、む

しろ恐怖感を感じさせるほどでした。ちょうど、飛行機の上から地上を

見て、人間のスケールの卑小さを実感するように、オーロラという巨大

な自然現象が、私が人間的スケールで積み上げている様々な意味、安定

性をいとも簡単に破壊する、そのような暴力性が感じられたのです。

 私は、眠ることができず、地上に仰向けに横になり、ただ呆然と、光

の渦が私の心の中に入り込み、私という存在をその核からかき回してい

くままにしていました。その間、自然の偉大さ、その背後の神の存在な

ど、抽象的な思考は一切浮かびませんでした。人間は、本当に予想外の

圧倒的な現象に出会った時、言葉も思考力も失ってしまうのかもしれま

せん。

 やがて、オーロラは次第に力を失って再び地平線上のちらちらとした

帯になり、東の空が明るむとともに、私の身体の人間的スケールが戻っ

てくるのが感じられました。そして、私はいつか眠りについていたので

す。

 翌日、寝不足の私たちを載せて、バスはカナディアン・ロッキーの美

しい自然の中を走っていました。私は目を閉じて、バスの座席の心地よ

い触感の中でまどろんでいました。危機は去り、再び、人間的なスケー

ルの安らかな日常が戻ってきているように感じられました。取るに足ら

ない冗語に熱中している仲間たちが好もしく感じられました。

 その後、滞在中にいくら目を凝らしても、同じようなオーロラは二度

と現れませんでした。啓示は、予期せぬ時に来て、二度と繰り返される

ことがなかったのです。

 今でも、フラッシュバックのように、時々、あの光の渦が思い出され

ます。そして、映画「ブレード・ランナー」の最後で、ルドガー・ハウ

ワーが演じるアンドロイドが死の前に発する言葉が思い出されるのです。

 「おれたちは、人間には想像もつかないような、信じられないものを

見てきた。木星のタンホイザー・ゲートに輝くオーロラも見た。でも、

それも全てもうすぐ消えていく。」

 巨大な自然現象と、それを投影する私たちの心の間には、スケールの

違いを超えた共鳴のモードがあるのでしょう。

 

◆ 脳科学ニュース ◆ ミラー・テスト

 

 顔の見えない部分(鼻の頭や、目の上など)に塗料を塗って鏡の前に

立たせた時、鏡の前のイメージが自分であると気がついて、塗料の部分を

撫でてみるかどうか調べるのが、ミラー・テストです。

最近私が参加した会議で、State University of New York at Albanyの

Gordon Gallup Jr.が、興味深いReviewをしていました。

まず、現在までミラー・テストに合格するという確実な証拠があるのは、

人間、チンパンジー、オランウータンの3種だけだとのこと。様々な生物

種の研究者が、自分のやっている動物は高等だと思いたいので「合格

した」という報告をするのだが、再現性がないのだそうです。ゴリラが

合格しない理由として、crocodile infected water thoeryという説

があって、ゴリラが水飲み場にしている川や池にはワニ

がいっぱいいて、もし水面に写ったイメージが自分だと判って調べたり

していると、そのようなゴリラは食べられてしまうので、淘汰された

ということ。冗談はともかく、ミラー・テストは、Theory of Mindや、

自己のイメージ、さらには社会的な行動に関連して非常に注目されてい

ます。

 

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<クオリアと志向性に基づく意識の新理論>

茂木健一郎

「心が脳を感じる時」

講談社より7月末発売

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---心は、全て脳内現象に過ぎないのか?----

茂木健一郎

「生きて死ぬ私」(徳間書店)好評発売中 1700円

http://www.trc.co.jp/trc/book/book.idc?JLA=98028745

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○電子メールマガジン「クオリア・ミステリー」1999/06/12

発行者:茂木健一郎 (脳科学者)

電子メイル kenmogi@qualia-manifesto.com

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